独立役員の任命より効果的な方法とは

次に、独立役員が株主利益の保護にとって効果的な制度であるかどうかを考えてみよう。一般株主の利益の保護だけに限定するにせよ、大株主をも含む株主全体の利益の保護を目的にするにせよ、独立役員の制度は、株主利益の保護のために有効な手段となりうるのだろうか。独立役員を一般株主の利益の保護のために働かせるという、インセンティブ・システムを設計するのは難しい。実際に独立役員が一般株主の利益の保護のために動いてくれるかどうかは、最終的には役員の自覚に頼るしかないのが現状である。私は、独立役員を任命するよりも効果的な方法があるのではないかと見ている。その方法を考えるには、一般株主がどのような方法で会社の経営に不満を表明できるかを考えてみればよい。

一般株主が不満を表明する方法は3つある。第一は、自分たちの代理人を選ぶという方法である。独立役員の制度はこれに含まれる。第二は株の売却という方法である。この場合は、株主の不満は株価の低下という形で経営者に伝えられる。この場合は不満があることがわかっても何に不満があるかを知るのは難しい。それを知るために、IRの活動が行われる。第三の方法は、株主総会における議決権の行使である。最近は、個々の議案ごとに株主の賛否の比率が公表されるので、株主が何に対して不満を持っているのかをよりよく知ることができる。第一の方法を「代理」、第二の方法を「退出」、第三の方法を「発言」と呼ぶことができる。それぞれの方法は長所と短所を持っている。このときに大切なのは、どれかの方法に限定してしまうのではなく、多様な方法を組み合わせることである。そして、それぞれの限界を克服する方法を考えることである。

この3つの方法のうち、一般株主の不満表明の方法として効果的なのは、第二の「退出」である。この不満表明をより効果的にするのは、経営者の株価への敏感さを高めることである。そのための効果的な手段はいくつかある。経営者の持ち株を推奨するという方法もあるし、経営者の報酬を株価に連動させるという方法もある。危険だけれども効果的な方法として、ストックオプションの制度がある。第三の「発言」という方法の限界は、株主の情報・知識の不足である。個人株主の場合、この限界は顕著だが、機関投資家もポートフォリオの多様性を考えれば、この限界を持っていると考えることができる。

一般株主の意向を反映させるには、どの方法がよいかではなく、多様な方法をうまく組み合わせ、それぞれの限界を克服する方法を工夫することが必要である。

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