動く前に、このひと工夫で安全を確保!
いくら「自分はまだ大丈夫」「自分はまだ若い」と思っていても、肉体を限界まで追い込もうとするような運動は危険です。回復能力の衰えは、65歳どころか40歳を過ぎれば始まっているのです。決して、世間一般でいう高齢者のみに当てはまる問題ではないのです。
ですので、脅すわけではありませんが、運動好きな人ほど、そのリスクについてもちゃんと認識しておいてほしいのです。
もし、自分の運動方法やトレーニングメニューに、ケガをするようなものがあるならば、すぐにそれをやめるべきでしょう。
たとえば、毎日ウォーキングをしているけれど、長い階段のところで躓きそうになったのであれば、その階段を通らないようにすればいいだけです。
あるいは、夕方以降は暗くて危険なのでジョギングを避ける、どうしても車の往来が激しいコースを走らざるを得ないのなら、いっそ室内用のランニングマシンを購入して、毎日、家の中で30分走るなど。交通事故の危険性だけでなく治安の面からも、そうする価値は十分にあるでしょう。あえて危険を冒す必要はないのです。
さらに年をとると、筋肉も筋膜も関節も固くなっていきます。ですから運動を始める前には、今までよりもストレッチなどの準備体操は入念に行ないましょう。
運動するにも備えが大事であり、“老化の運命”を分ける要素になってきます。
「筋肉をつけるため」でなく、「失わないため」にする
では、ケガのリスクを知ったうえでどんな運動をすれば若々しくいられるのでしょうか?
まずは、中高年が運動する際の目標設定のアップデートが必要です。
結論から言うと、中高年の「目標は、筋肉量を落とさないため」に尽きます。
これまでは「筋肉量を増やすため」にしていたのを、「今ある筋肉量を維持するため」に改めます。
40歳を超えると、筋肉量は毎年1%ずつ減少していきます。すると70歳になったとき、筋肉量は若いときの半分ほどにまで減ってしまうのです。これが「サルコペニア」(加齢性筋肉減弱現象)と呼ばれる老化現象です。
この「サルコペニア」に抗するために、落ちる筋肉量を補うだけの筋肉を新たにつくっていくのが、40歳を超えてからの運動をする目標とします。
「40歳を超えてから」としましたが、実のところ50歳代後半までは、まだ、筋肉の組織は早くつくられるので、サルコペニアについてはさほど気にする必要はないとされます。体調管理をしっかり行ない、適度の運動を続けていれば大丈夫です。
しかし60歳以上になると、とたんに筋肉はつきにくくなります。ですから、食事メニューに含まれるタンパク質の量を減らさない工夫をするとともに、足の屈伸や腕立て伏せのような自重運動、つまり自分の体重を負荷にして行なう運動をすることが必要になります。
では、「適度の運動量」とは、いったいどのくらいが目安なのでしょうか?
厚生労働省が『健康づくりのための身体活動・運動ガイド』(2023年)で推奨しているのは「毎日40分以上の身体活動」と「毎日6000歩以上」の歩行です。
一見、大変そうですが、すでに私たちは65歳以上の男性で平均5396歩、女性で平均4656歩の歩行をしています。ですから、これに20~30分の散歩を加えれば、すぐに目標はクリアできます。
歩くのが困難な人も、ストレッチなどで体を動かす時間をつくり、じっとしている時間を短くするだけでOKなのです。