「かわいそうな女の私がしゃべれば…」と苦しむミキ
NHKの朝ドラ「虎に翼」では、主人公の寅子が担当する原爆裁判の判決が言い渡されました。判決は、請求棄却。つまり、訴えた側である原告の負けです。
しかし、判決理由の中で、「原爆投下は国際法からみて違反な戦闘行為」であり、「被害者救済の責任は、国会と内閣が果たさなければならない」と指摘し、これを放置している「政治の貧困を嘆かずにはおられない」と述べ、政治による救済を促しました。
判決前に、原告の1人である被爆者の吉田ミキが、法廷で証言するために広島から上京します。ミキは、原告代理人の弁護士よねに、「かわいそうな女の私がしゃべれば、同情を買えるってことでしょ?」と、証言を決意した動機を打ち明け、「差別されないってどういうことなのか」と唇を震わせます。
「被害を再現するつらさ」は今も変わっていない
よねは、「無理に法廷に立つことはない」「(同僚弁護士の轟は)ミキを矢面に立たせるべきではないという考えだった」「証言の苦しみに見合う報酬は得られない」「声をあげた女に、この社会は容赦なく石を投げてくる。傷つかないなんて無理だ。だからこそ、せめて心から納得して、自分で決めた選択でなければ」と話し、ミキの心情に寄り添います。しかし、ミキは泣きながら「こんなに苦しくてつらいことを、伝えたい、聞いてほしい」と訴えました。
この場面は、被害者が置かれた苦しい立場をよく表しています。それは、令和の今も変わっていません。
民事裁判でも刑事裁判でも、被害者が証言することには多大な苦痛を伴います。慣れない法廷で、裁判官に向かって、忘れてしまいたいつらい体験を語ることは被害の再現でしかないからです。身内からの反対も少なくありません。
それでも、理不尽な目に遭ったこと、つらく苦しい思いをしていることは、世間にわかってほしいのです。勇気を出して証言し、勝訴したとしても、よねが話したように、得られる賠償金は驚くほどに低額であることも、その通りです。