証言者を緊張させる「裁判官の能面問題」

喜怒哀楽つながりですが、法廷でほとんどの裁判官は、無表情で、感情を出すことはまずありません。私は、「裁判官の能面問題」と呼んでいます。笑顔で裁判はできないでしょうが、普通に挨拶する程度の表情でいることはできないものでしょうか。

上谷さくら『新おとめ六法』(KADOKAWA)
上谷さくら『新おとめ六法』(KADOKAWA)

法廷は日常生活とはかけ離れた場所です。天井が高く、威厳があります。裁判官は真っ黒な法服を着て、検察官や弁護人、当事者、傍聴人よりも一段高いところで立派な椅子に座っています。そこで、検察官や弁護士からさまざまな質問をされ、話をしなければならない当事者は、想像できないほどの緊張感にさらされています。さらに、「質問は横からされるけど、答えは正面を向いて裁判官に向かって話すように」という謎のお作法があります。

しかし、当事者が裁判官に向かって答えても、裁判官は頷いたり首を横に振ったりしません。ひたすら無表情で証言する人を見つめているのです。その状況で、当事者が記憶をたどり、事実を正確に述べることは困難です。結果的に、真実発見から遠のいているのではないでしょうか。さまざまな意味で、「血の通った裁判」であってほしいと思います。

コピペではない「裁判長の熱量」を見せてほしい

ドラマの「原爆裁判」で印象的だったのは、当初は傍聴人が竹中記者一人だったのが、彼の記事により、多くの記者が傍聴席に詰めかけるようになり、社会問題として世に認知されたことです。重大な問題が生じても、世の中に知られなければ「なかったこと」になる恐れがあります。このことは、さまざまな問題が複雑化し、世界規模になりやすい現代社会では、より当てはまると思います。

判決の際、記者たちは途中で、一斉に席を立って帰ろうとしました。いち早く号外を出すためだったと思われます。しかし、裁判長の熱量の籠った判決理由の朗読が、彼らを法廷に引き戻しました。

今の裁判所で、そのような場面に出会うことはまずありません。多くの当事者が、「判決はコピペですか?」と不満を漏らします。ひとつとして同じ事件はないはずなのに、ワンパターンの判決理由がとても多いからです。どんな裁判であっても、ほとんどの当事者にとっては一生に一度のことですから、魂を込めて「その事件の判決」を書いてほしいと、ドラマを見ながら改めて思いました。

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