私にはない資質で部下が「肚落ち」する

ローソン社長兼CEO 
新浪剛史

43歳でローソン社長を拝命してから9年が過ぎた(※2011年雑誌掲載当時)。企業経営は戦いの連続だ。若いころビジネススクールで学んだことが役に立たなかったとはいわないが、それはあくまでも竹光(たけみつ)の試合。経営は真剣勝負であり、その積み重ねによって、私なりのリーダーシップが培われた。さまざまな経営上のトラブルにつきあたり、そのたびに「命を取られるわけじゃない」と覚悟を決め全力で対処してきたつもりだ。

しかし、9年の間に社会は変わり、ローソンの体質も大きく変わった。いつまでも私自身が野戦指揮官のように全軍に号令をかけ続けるわけにはいかないと思う。そこで2011年3月をもって組織変更を行うことにした。

まず、国内事業をコンビニエンス事業とエンタテイメント・eコマース事業とに分け、それぞれにグループCEOを設置する。私は社長として引き続き事業全体を統括するほか、海外事業グループCEOとして中国、東南アジアなど、アジア地域のコンビニ展開などに力を注ぐ。

海外事業はローソンにとって次代を託すべき成長分野。ここに切り込んでいくには、私自身が先頭に立って市場の見極めや人脈開拓など、あらゆる事柄に道筋をつけなければならないと判断したからだ。

そうなると、国内の経営を任せることのできる人材が必要になる。そこで国内コンビニ事業のグループCEOとして招いたのが、リヴァンプ代表パートナーだった玉塚元一氏だ。玉塚氏とは彼がファーストリテイリング(ユニクロ)の社長だった時代に知り合い、組織を上手にまとめ上げる手腕に感嘆することが多かった。

今後のリーダーには、熟慮し決断するという能力のほかに、なぜそれを断行するのか、部下たちに「肚落ち」させるという能力が求められる。玉塚氏にはその力が備わっている。私が全社に大きな方向性を示し、それを受けて玉塚氏がみんなを束ねて実行する、という役割分担ができたら素晴らしいと考えたのだ。

玉塚氏のリーダーシップは、たとえるなら東郷平八郎型だ。東郷元帥は名参謀の秋山真之らをうまく使いこなし、日露戦争の日本海海戦でみごとな勝利を収めることができた。