「全国一律」と決別 女性・高齢に照準

ローソン社長・CEO 新浪剛史 にいなみ・たけし●1959年、神奈川県生まれ。81年慶應義塾大学経済学部卒業、三菱商事入社。配属は砂糖部。91年ハーバード大学経営大学院修了、MBA取得。95年ソデックス創業のため出向。2000年ローソンプロジェクト統括室長を経て、02年ローソン顧問から社長に。10年より経済同友会副代表幹事。

43歳で、社長に就任した。創業家の一員として経営を引き継ぐ、あるいは自ら会社を興して成功すれば別だが、40代前半で一部上場企業の社長になることは、異例だ。しかも、ローソンは業績が伸び悩んでいた。居並ぶ役員たちは全員、年上だ。だが、全く臆しない。後で触れる「血筋」もあっただろうが、「挑戦」という言葉が好きな、前方志向の人間だった。

2003年3月、全国に7つの支社をつくり、店づくりや品揃えに、地域の自主性を認めることにした。社長になって10カ月。「業界首位のセブンイレブンを見習い、全国一律の店づくり、品揃えで効率化を進める」という路線に、「これは、違う」と確信し、決別した。

コンビニ市場は成熟期に入り、デフレ状況が続くなか、飲食店まで加わったおにぎりや弁当などの安売り合戦が激化していた。各社はそこを切り抜けるため、次から次に新商品を開発し、全国の店頭に並べる。だが、過去の成功体験の延長上にある商品開発に、大きな差は生じない。

では、どうすればいいのか。「現場のことは、現場をみないとわからない」と思い、時間を割いては全国の店を巡り、オーナーたちと話し込む。そのなかで、「店づくりでも品揃えでも、本部が全国を一律的に考えているのは、違うのではないか」とひそかに思っているオーナーの心に、何度か触れた。

多様性の受け入れは、店舗展開の前線に立つ面々にも、大きな変化を求める。地域に深く浸透した食材の発掘、都市部とは違った味付けなど「みえない需要」をつかむ役割だ。支社長たちに「地場企業と取引し、地場商品を扱って地元企業になれ」と檄を飛ばす。だが、従来とは違う発想をこなす人材が足りない。人材育成には、お金は惜しまない。課長や部長たちを分けて1週間ずつ、一人に60万円をかけ、3年間で150人を研修する。「本部に相談などせず、自分で決める力を持て」。毎回2時間は教壇に立ち、繰り返す。