優位な側、強い側が身を切る覚悟を持つ
転籍や出向、降格や配置転換など相手に不利な条件を納得してもらうためには、普段の言動も重要です。こちらの都合のよいときだけ気を配るのは薄っぺらな人間のすることで、相手にも見抜かれます。普段の言動から信頼を得てこそ、「あいつの言うことなら納得できる」と思っていただけます。
その点で強く意識していたのはフェアであること。例えば役員が「あいつはダメだ」と評価を下しても、人事の目で客観的に情報を集め、公正な評価を下す。そうした積み重ねがなければ、何を伝えても「どうして俺が」と不満が溜まります。
公正さを示すには、自分で身を切る覚悟も必要です。マルハとニチロが統合して最初の人事異動で、私は極力ニチロの社員を温存しました。マルハとニチロは対等合併で、本来ならどちらの出身かを考えること自体がいけないのかもしれません。しかし、事業規模はマルハのほうが大きく、それに応じて公正にポストを割り当てると、ニチロ出身者が肩身の狭い思いをしてしまう。両社の融合を進めるには、逆にマルハ側が身を切り、出身会社の力学が働かないことを示したほうがいいと判断したわけです。
それだけが要因ではありませんが、おかげさまで名門企業同士の合併で起こりがちな壁を乗り越えて、いま社員は新しいマルハニチロとしての価値観を共有しつつあります。世の中には不幸せな結婚もありますが、うちは幸せな結婚になったのではないでしょうか。
普段の人間関係でいえば、相手に関心を持つことが気配りの第一歩です。あたりまえのことを指摘しているようですが、マネジメントする立場になって多くの部下を抱えると、簡単なことができなくなる人が目立ちます。
人事課長になって約10人の部下を持ったとき、私は毎日どんな言葉でもいいから一人ひとりと言葉をかわそうと決めました。朝なら「おはよう」、とくに用事がなくても「最近どう?」「元気か?」と声をかける。基本的なスタンスは、経営者になったいまでも同じです。社員と話すときは、社長室に呼び出すのではなく、できるだけこちらから出向いて、周囲にも積極的に声をかける。そうやって相手に関心があることを伝えています。