客の懐具合で応じる京都の花街文化

堀場製作所 最高顧問 
堀場雅夫氏

僕らの世代では「他人に恥をかかせない」ということが気遣いの第一でした。家庭でも「そんなことをしたら恥ずかしいよ」「恥をかかないようにね」と教えられました。

たとえば中卒の人が1人でも交じっていたら大学生活の話はしない、外国籍の人がいたら差別的なことは一切いわない。相手に嫌な思いをさせないということが大事です。その意味では、ネガティブな反応を避けるためのリスクマネジメントだといえるでしょう。

京都の花街には「お客に恥をかかせない」という文化があります。40代に入るころ、堀場製作所もそれなりの会社になったので、目上の人に連れていってもらうだけではなく、お客様の接待にもお茶屋を使うようになりました。僕が行っていたお茶屋の女将さんは、そういうとき、僕に恥をかかせないよう上手に気を遣ってくれたものです。

接待相手に恥ずかしくないようにすることはもちろん、芸妓や舞妓にご祝儀を渡すタイミングがわからないでいると、「あんたはそんな気使いせんでよろしい。あんたが恥をかかんよう、私がちゃんとしておくから」と耳打ちしてくれました。

しかも、会社や僕の懐具合を承知していて、あまり費用がかからないように配慮してくれるのです。

たとえば「芸妓さんを3人ほど呼んで」と頼むと、「2人にしときなさい。3人なら費用は1.5倍かかるけど、効果は1.1倍やさかい」。こういう気遣いをするのです。

「情けは人のためならず」といいますが、こういう気遣いは必ず自分に返ってきます。お客からすると「儲け主義の別のお茶屋と違って、あのお茶屋さんは、ぼったくりはしない。リーズナブルにきちっと遊ばせてくれる」という好印象を持つわけです。するとその評判が広まります。

ただ、最近は芸妓を2人しか呼んでいないのに3人やってくる場合も増えました。こちらの懐具合を見越して、「それくらいならかまへんやろ」と思うのでしょうね(笑)。

ところが、昨今は恥を知らない大人が増えたのが残念です。菅直人元首相や鳩山由紀夫元首相が典型です。まわりから信用されるためにも、人間はもう少し恥ということを意識しなければいけません。