職人の域には20年以上必要
しかし、6軸は旧タイプの工作機械で、5年ほど前に国内メーカーは製造からすべて撤退してしまった。そこで、エイベックスは、中古の6軸を全国から買い集めている。「価格が安いので、設備投資も抑えることができる」(加藤会長)。オーバーホール(分解検査)をしてみて、状態のいい機械は修理をして使い、状態の悪い機械はスペア用の部品を取り出しておく。それが可能なのは、エイベックスに6軸を長年扱ってきたノウハウがあるからだ。加藤会長が次のように語る。
「6軸は扱いも難しい。NCは作業用の目盛りに従えば簡単に動かせるが、6軸は手作業で微調整しなければいけないので勘とコツがいる。たとえば、若い工員に6軸のベアリング(軸受け)の締め方を教える場合、『肩から力を入れる』『肘から力を入れる』『手首に力を入れる』『指先に力を入れる』と、手の力加減に応じて4段階で説明している。しかし、言葉ではすべては伝えられない。あとは体で覚えるしかない」
工員が6軸を操作できるようになるまで2~3年、一人前の技能工になるまで10年、オーバーホールができるようになるまで20年以上はかかるという。エイベックスでは今、これまで培ってきた“職人芸”の伝承に余念がない。勤続55年、70歳の大ベテランの工員が、若い工員たちの実技指導に当たっている。「機械を使いこなす“技能”が当社の生命線。技能が先に立たないと、技術を活かせない」と加藤会長は強調する。
そして、技能の伝承に欠かせないのが終身雇用制度。技能の伝承には時間がかかるため、社員には会社に長く勤めてもらう必要があるのだ。
同社の従業員は現在261人。離職率は極めて低いという。定年は60歳だが、「元気で働けるなら定年を延長し、文字通り“終身雇用”する」(加藤会長)。給与体系も年齢給と勤続給が中心で、ボーナスにも支給割合に差をつけない横並びに近い仕組みだ。さらに、リーマンショックのときも、人員整理や賃金カットを一切行わなかったばかりか、前期並みの賞与まで支払った。なぜなら加藤会長には確たる信念があったからである。