多くの人は「節税」というワードが大好き

相続「税」対策はほんの一握りの人だけの問題ですが、多くの人は「節税」というワードが大好きなように見受けられます。

とりわけ中小企業の社長は、節税というワードに弱いのではないでしょうか。

私自身も中小企業経営者なのでその気持ちはよくわかりますが、相続税対策が必要かどうか、冷静になって考えてみていただきたいと思います。

「アパートなんか建てずに、現金で持っていれば、もっと簡単に財産を分けられたのに……」――私が相続のお手伝いをしていると、そう思う場面に出くわすことがよくあります。

預貯金は分けられても、不動産は簡単には分けられないからです。

収益物件を相続した人間が代償金を準備できなければ、この事例のように、優良物件であっても売却して現金化しなければなりません。

分けづらい資産に変わってしまうこと、ここに収益物件の難点があるのです。

アパート経営は甘くない

もうひとつの難点は、アパートオーナーという立場を子どもたちが楽しめるかどうかわからないことです。

不動産投資というと、「何もしないでも、物件が収益を生み出してくれる」というイメージを抱く人が多いでしょう。

しかしアパート経営は、建てるだけでチャリンチャリンと家賃が自動的に入ってくるような、甘い世界ではありません。

不動産賃貸業というれっきとしたビジネスであり、不動産投資で成功している人は例外なく、手間暇をかけて物件の価値を向上させているものです。

果たして、あなたの子どもたちは不動産賃貸業にエネルギーを注ぎたいと思っているでしょうか?

子どもたちがサラリーマンなら、プライベートの時間を費やしてまで取り組む覚悟があるでしょうか?

子どもたちの生活状況や属性、キャラクターまで考えたうえで誰に相続するか、そもそもアパートを建てるかを決めなければ、せっかくのアパートがお荷物となってしまいます。

澤井修司『あるある! 田舎相続』(発売:講談社、発行:日刊現代)
澤井修司『あるある! 田舎相続』(発売:講談社、発行:日刊現代)

そもそも、収益不動産は、収益性がなければ意味がありません。

正平が建てたアパートは収益が出ているからまだいいのですが、この人口減少時代、建てたはいいものの入居者が集まらないアパートが急増しています。

たしかにアパート建築は合理的な節税策です。ただ、営業マンの口車に乗せられてテンションが上がったがあまりに、自分1人の判断で、勢いで手を出さないほうがいいでしょう。

アパートを建てるなら、黒字経営ができるか、相続のときに分けにくくならないかという2つの点を熟考してください。

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