心の強さを持ち接客業の“アフター”を断るように
西久保さんが解説を加える。
「実は、これは夜の接客業に従事する方々がアフターを断る手法なんだ。しつこい客や面倒な客の誘いを軽やかに断りつつ、さらには“家族を大切にする人”というプラスのイメージまで植えつけることができるというわけだね」
「でも、中学受験だなんて、高山さんのご家族って教育熱心なんですね」
「フッ。もちろん、高山君にそんな甥っ子はいない」
「えっ……」
「そこで嘘をためらう必要はないんだ。最初から残業を当て込んで、担当外の仕事を押しつける上司が悪いんだからね。少なくとも、高山君はそう考えていると思うよ」
ピンチを鮮やかに乗り切るには、機転を利かせるスキルが必要ということだろうか。理不尽な要求を堂々と跳ねつけるには“心の強さ”もなくてはならないのかも。
一朝一夕には身につけられないだろうが、交渉事には欠かせない技術だろう。
とは言え、このやり方は難易度が高すぎる……。
必殺! “自主謹慎”で定時に帰る
「でも、この方法って、さすがに何度も使えないですよね」
「まあね。高山君はその後も『甥っ子』を『両親』や『妹』に変えて、やりくりしていたけど。実際は、とっておきの場合だけ使うのがいいだろうね」
「乱発したら、とんでもない大家族に……。でも、他に対策があるんですか?」
「フフ……。次のページをめくってみたまえ」
「『残業には“謹慎”が効く!』とありますが……」
「ちょっと上級編になるけどね。以前、どうしても定時に帰りたい高山君がね……」
西久保さんは、新しいエピソードを語り始めた。
高山「課長、ちょっとお話よろしいでしょうか?」
悪徳上司B「何だ?」
高山「実は、先ほど重大なミスを犯してしまいまして」
悪徳上司B「おいおい、勘弁してくれよ。どんなミスか知らんが、俺は責任持たんぞ」
高山「はい。実は主要取引先の久保様宛てのメールを打った際にですね、“久保様”ではなく“久保君”と書いて送信してしまいました!」
悪徳上司B「何だ、そんなことか。で、ちゃんと謝罪はしたのか?」
高山「もちろん、謝罪の方はさせていただきました」
悪徳上司B「なら、問題ないだろ」
高山「ただ、自戒の念を込めて今日の定時以降は謹慎させていただこうと思います」
悪徳上司B「謹慎……」
高山「ハイ。自主的に謹慎いたします。では、定時になりましたので、これから謹慎に入らせていただきます」
悪徳上司B「あ? ああ……」
高山「尚、仕事に対する自信を取り戻すまでは、自宅で謹慎を続けます」