わずか数百円の古本に無限の価値

「自分は医療関係者ではないので、たくさんの死を見る機会などない」という人もいるでしょう。でも、死は病院の中だけにあるわけではありません。いちばんたくさん死があるのは、実は本の世界ではないでしょうか。

読書はいちばんお金のかからない趣味であり、手軽なものでありながら、人間を磨き深める最高の手段だと思います。文庫や新書ならコーヒーかラーメン一杯程度の金額で、古今の叡智えいちに触れることができるのです。図書館を利用すれば、もっとお金はかかりません。

私は以前から無類の本好きでしたが、仏教を学ぶ目的で大学院生になってからさらに読書好きに輪がかかり、毎月数十冊以上の本を読んでいます。空海に学び、親鸞と出会い、道元の言葉に耳を傾けたのも皆、本の中でです。

わざわざ高速料金を使って車通勤しているのも、このほうが時間を一時間も短縮できるから。その分、自分の時間が増え、読書する時間も確保できます。本だけではありません。映画、ドラマ、芸術……。

一見死を描いた作品でなくても、そこに人が描かれている以上、生きるということ、どのように人生を送ればいいのか、そして、どう自分の死を迎えればいいのかという示唆にあふれているはずです。

「豊穣の生命」は「豊穣の死」とイコール。生きることの裏側には、常に死が密着しています。その気になれば、草や花、庭に住む小さな生き物からも死を学ぶことはできるでしょう。

切り株で育つ植物
写真=iStock.com/uncle_daeng
※写真はイメージです

「生は来にあらず、生は去にあらず。生は現にあらず、生は成にあらざるなり。しかあれども、生は全機現なり、死は全機現なり」

道元の『正法眼蔵』にある言葉です。私は『正法眼蔵』をわずか数百円の古本で手に入れましたが、そこから得たさまざまな知識、感慨はまさに無限の価値がありました。

死に臨んだときの自分の思いを書き残しておく

自分が死んだ後、家族の心身の負担を最小限にするためにも、死に臨んだときの自分の思いを書き残しておくこと、いわゆる「エンディングノート」を書いておくといいと思います。

エンディングノートは書店や文具店などで手に入りますし、パソコンを操作して関連サイトからダウンロードすることもできます。一般的には、次のようなことも書いておくといいとされています。

①自分史(これまでの人生を振り返って、特に思い出に残っていることなど)
②資産一覧
③介護や延命治療などについての考え方、希望
④葬儀や墓についての希望
⑤遺産相続における希望。遺言書の有無
⑥家族や親戚、友人などへの言葉

ただしエンディングノートは、正式な遺言書(遺言公正証書や自筆遺言書)と違って、法的な効力はありません。法的な効力を必要とする場合は、エンディングノートとは別に、正式な遺言書を用意しておきましょう。

しかし、ある意味では正式な遺言書以上に、故人の思いが込められているのがエンディングノートと考えられます。遺族はエンディングノートにある故人の思いを、最大限尊重する気持ちを持つようにしたいものです。

同時に大事なことは、ときどき、エンディングノートに書いたことを配偶者や子どもたちに話しておくことでしょう。