「有事」を想定した訓練をしない日本
(前編から続く)
――台湾では2024年7月末に、国民も参加する大規模な防空避難訓練が行われました。韓国でも2023年、国民参加型の防空訓練が行われています。
【武田】台湾は危機意識が高いため、毎年全国レベルの訓練が行われています。しかも一般に「民間防衛」と呼ばれるもので、国民には参加義務があります。「シェルターに退避を」「自家用車を道路に置かないように」と指示が出れば従わなければならない、かなり徹底した訓練を行っています。
一方、韓国の場合は政権によっては北朝鮮に融和的な対応をするため、戦争に対する意識が薄れる時期があります。昨年の訓練は実に6年ぶりに行われたもので、50万人規模で行われたといわれています。
――日本では防災訓練は盛んにおこなわれていますが、軍事的な有事を想定した訓練となると経験がありません。
日本では「国民保護訓練」という名称で実施されており、国民保護法に基づいて地方自治体が主催する形で行っています。
国民保護法は、武力攻撃事態などを想定して、いざというときに国や都道府県及び市区町村、関係機関が協力して国民の生命・財産や経済活動を守るためにできた法律で、安全保障上の「有事」を想定したものです。
1位は福井と徳島、ワーストは和歌山
2004年に成立し、以降、2005年から2023年までの間に、最も多い都道府県で福井県、徳島県が16回。最も少ない和歌山県は3回の国民保護訓練を実施しています。
全国的に訓練回数が少ないのですが、中身も問題です。国民保護訓練のシナリオは、法律では武力攻撃事態などを想定しているにもかかわらず、実際には主に自然災害がベースになっています。
近年、ようやくテロリストや武装した不審者が上陸してきたとか「ミサイルが着弾」という、武力攻撃に準じた事態を想定した訓練シナリオを組み始めていますが、武力攻撃事態となるとまだまだ片手で済むくらいの回数しかやっていません。
特に有事の想定は県知事などの意向に左右されますので、トップがリベラルなスタンスであるなどの場合には、軍事的な有事を想定することが難しい状況があります。
――安全保障環境が厳しく、最も訓練が必要と思われる沖縄でも、わずか5回ですか。
それでも離島などで、「訓練すべきだ」、「住民避難を想定しておかなければ」という声が出てきてはいるようです。しかし日本全体で見ても、国民参加型の防空避難訓練、いわゆる「民間防衛」の訓練については準備も意識も不十分である、というのが実情です。