地下鉄の駅はミサイル攻撃には耐えられない
実は前編でも触れた在外邦人保護に関しては、海外でかなり大規模な訓練が行われています。例えばアメリカが主催してタイで行っているコブラゴールドという演習では、日米とタイが連携して、タイの大使館員や領事館員、タイ在住の邦人たちにも協力してもらって、保護訓練を実施しています。
国内での国民保護訓練も、もっと活発にやるべきなのです。また、やりやすいからと言って防災に寄せた形で想定すると、有事が起きたときには対応を間違えることもあります。
たとえば、地震などの際には「地下鉄の駅などに逃げ込め」とよく言われますが、シェルターを視野に入れずに設計された地下鉄の駅はミサイル攻撃には耐えられません。相当に堅牢な補強がなされていない限り、全く安全ではないのです。
台湾や韓国では町中に「避難路」「シェルター」などの表示が出ていますが、これは文字通りのシェルターであって、単なる地下施設とは違います。堅牢で、数日分の食料やガスマスクなども備蓄されています。
日本の地下鉄の駅に逃げ込んでも、シェルターの機能はありません。一次的な爆風をしのぐためにはいいかもしれませんが、物品も災害時用の毛布と軽食くらいしか用意されていません。放射能や毒ガスに耐えられる機能を持つ地下街は、日本には皆無です。
ボランティアに頼るしかない現状
最近になってようやく、日本でも一部から「シェルター設置の検討を」という話が出るようになりましたが、ヨーロッパのように一定の予算が割かれるところまでは行っていません。実際に有事が発生する蓋然性を考えれば、「今すぐコストをかけて用意すべきものではない」という発想になるのかもしれませんが、国民本位の備えが必要です。
――市民、国民の側から所属する自治体に「シェルターの検討を」「有事を想定した国民保護訓練実施を」と要求するしかないのでしょうか。
市民の側から「訓練を!」という声が出るかというと、相当難しいでしょうね。
国民保護の訓練をするとしたら、地方自治体と連絡を密にする対象は第一に町内会になります。しかし現在の日本の町内会は有事対応など当然、想定していませんし、都市部などでは町内会に入っていない人も多く、そもそも町内会自体が存在しない地域もあるでしょう。
現在、行われている国民保護訓練は、政府や自治体が作ったシナリオに、ボランティアで手を挙げた人が参加してシナリオ通り動いてもらう、というものです。それでもやらないよりはずっといいのですが、期待されているようなものとはずいぶん、差があると思います。