「軍事アレルギー」の弊害

――「国民保護」と言われると、国民としては保護されるのを待っていればいいという印象なのですが。

本来は「民間防衛」と言った方がよかったんだろうと思います。英語でも「シビル・ディフェンス」と言い、外国の侵略に遭ったときに国民をどう守るのか、その時、政府や軍はもちろん、国民は何をすべきかという観点を学びます。

諸外国では軍が行う防衛と国民の防衛をセットで考えていますし、ヨーロッパの国々ではシビル・ディフェンスにも一定の予算を割き、シェルターの拡充などを行っています。

日本では「民間防衛」という言葉には、戦前を想起させ、国民を守るというよりも戦争に向けて徴用した、というイメージがものすごく強く残っています。そのため、民間防衛という言葉が使いづらく、「国民保護」としているのです。しかし英語で言うところの「シビル・プロテクション」は自然災害に対する防災や助け合いであって、やはりシビル・ディフェンスとは似て非なるものなんですね。

さらに日本では国民保護の主体は地方自治体ですから、安全保障や軍事の問題は身近ではなく、「ある特定の地方自治体にミサイルが落ちた」という想定でシミュレーションしろと言われても、なかなか難しい。

これに関しては政府が地方を相当に支援してシナリオ作りをし、訓練をお願いするしかないと思うのですが、地方は人も予算もないのが現状です。だからやはり身近で、市民にも説明しやすい「防災」に寄せた訓練や備えを行ってしまうのです。

東京国際大学の武田教授
撮影=プレジデントオンライン編集部
東京国際大学の武田教授

自衛隊に頼れない状況

――国民保護における自衛隊の役割とはどのようなものなのでしょうか。

国民保護を行うのは第一に内閣官房と地方自治体であり、消防・警察が主役です。自衛隊ももちろん、支援・協力はしますが、もし外国からの侵略を受けているというような場合には、自衛隊は侵略してくる敵に対処するのがメインの仕事であって、アセットの大半はそちらに向けることになります。

つまり自衛隊のアセットは主として軍事・防衛に使われるため、民間防衛に使われるアセットは限られてきます。状況にもよりますが、有事の場合、国民保護に関しては自衛隊に頼れないという状況になる可能性もあります。

――それは誤解がありそうですね。災害派遣と同じように、自衛隊が助けに来てくれるというイメージです。

実際にはそうではなく、だからこそ平時の訓練でも市民と自衛隊が組んで訓練を行うという形にはならないのです。

――現状はミサイル警戒システムであるJアラートを使った訓練でも「戦前を想起させる」「撃たれないようにするのが先だ」という反対論が起きます。

しかしいざというときのためにやっておかなければ、実際の事態には対処できません。