米軍も守ってくれない

――「軍事忌避」の風潮が行き過ぎると有事を想定することすらできず、結果として自分たちの身も守れないということになってしまいます。

福島原発事故の時もそうでしたが、人々は当初、放射能が流れる方向とかかわりなく避難しようとしました。「事故」を想定した訓練をしていなかったからです。

――当時、事故直後米軍は家族を日本から退避させましたね。日本が事故に対応する姿を見せたら「トモダチ作戦」といって災害派遣には協力してくれましたが。

もちろん日米同盟は存在し、実際に何かあれば協力するという内容を積み重ねてきてはいます。在外邦人の保護も日米協力の一つとして盛り込まれてはいます。

しかし現実はどうかと言えば、米軍としては当然、自国民の安全が第一ですし、アメリカが本気で助けるのは「自国民や国の安全を自分で守ろうとする国」だけです。

自分の身は自分で守る

その意思と能力を示している国に対しては、アメリカは手助けします。しかしそうでない国に対しては違います。「なぜ自分の身を守ろうとしない国を、アメリカが守らなければならないのか」と。その通りですよね。

武田 康裕編著『論究日本の危機管理体制 国民保護と防災をめぐる葛藤』(芙蓉書房出版)
武田 康裕編著『論究日本の危機管理体制 国民保護と防災をめぐる葛藤』(芙蓉書房出版)

これはトランプ政権に限らず、バイデン政権もそうでした。こうした内向きの姿勢は、次の政権のトップが誰になっても変わらない傾向だと思います。

だから有事であれ、災害対応であれ、在外邦人の保護・救出であれ、「まずは自分で、できるところまでやる」のが大前提です。

米軍ありきの仕組みや意識をもたらしたのは、やはり戦後体制、憲法によるところが大きいでしょう。ともすれば抑止力を持つことすら、否定されてしまうのが現状です。しかし「自分の身は自分で守る」は、国でも個人でも当たり前のことなのです。

(インタビュー・構成=ライター・梶原麻衣子)
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