話力は天性の素質ではない

せめて、家族や友人に何度かリハーサルにつき合ってもらえば、そこで「もっとこういうふうに話したほうがいいよ」とか、「固すぎるから棒読みになってしまってつまらない」「何が言いたいのかわからない」など、適切なアドバイスをもらえるはずなのに、そこができないのです。

友人のなかで自分の考えを話すのも結構難しいなと思うなら、その前にひとりでいるときに、自分の考えを声に出してしゃべってみる。自分の考えを声に乗せることに慣れる。

それを録音して聞いてみる。何を伝えたいのか、要旨を意識してリハーサルをする。それだけでもずいぶん違うはずです。

鏡の前でスピーチのリハーサルをするビジネスウーマン
写真=iStock.com/ChayTee
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わたしもラジオに出るようになって、ときどき自分のしゃべりの録音をradikoのアプリなどで聞くのですが、表現力や論旨などの点で反省させられることが多く、次回からの教訓にしています。

・話力は天性の素質ではない。
・人前で話すことに対する苦手意識を取り払うには、リハーサルを惜しまない。

大手予備校の人気講師たちも、生まれながらにして生徒を引きつける話力をもっていたわけではありません。多くは、アウトプット力を磨くための努力を陰でしているのです。

表面的な上手さよりも、大事なのは「相手にきちんと伝わるか」

「うまく話さなければ」の強迫観念を捨てる――アウトプット実践のヒント②

アウトプットに関するリハーサルの大切さは、前述したとおりです。しかし、その一方で、これまた日本人の傾向として、「上手に話さなければ」という強迫観念が強いことも指摘したいと思います。

人にものを伝える際、大切なのは、小説家が書く文章のように流麗であることではありません。そうではなく、いかに相手が理解できるように言いたいことを自分の言葉で伝えられるか、その一点に尽きます。

表面的に上手にしゃべることと、相手が真意を理解できるように伝えることとは、似て非なるものです。

日本人はコミュニケーションに関して、平易な言葉ではなく難しい言葉で語るほうが格が上だと勘違いしています。

また、大事なのは話の中身なのに、表面的な技巧を磨くことを優先しがちです。

話し方の技巧や伝え方の技巧に関する書籍が結構売れてしまう背景には、「上手に話さなければ」の強迫観念があることは間違いないでしょう。中身に関しての検討は、たいてい置き去りにされてしまっています。