イチローと長嶋茂雄の共通点

このとき佐々木が感じていたのは「イチローと長嶋茂雄との共通点」だった。

「イチローは完全に長嶋タイプで、一方の城島は王タイプですね。王貞治に何かをしてあげると、次の日の朝には本人から感謝の電話がかかってくる。一方の長嶋は礼状もなければ電話もかかってこない。グラウンドで会っても何も言わない(笑)。ユニフォームを着ているイチローは長嶋と同様、野球のことで頭がいっぱいなんでしょう。それはプロとして悪いことではないですから。ところで……」

佐々木の口元から白い歯がこぼれた。

「……ところで、あれから何年も経ちました。イチローが銀鱈を食べたのかどうか、私は今でもわかりません(笑)。我が家ではこれを《イチローの銀鱈事件》と名づけて笑っています(笑)」

09年WBCでも、イチローとの対面を果たしている。

「WBCの国内合宿のときに、イチローと再会しました。取材初日、私がグラウンドで立っていると、イチローは私の顔を見るなり、大きな声で“あっ、プロ野球ニュースだ!”と無邪気に笑います。彼にはそういうユーモア精神があるんですね」

スター選手たちの怖いもの

ひとしきりイチローとの思い出話が続いた後、佐々木は持参していた古びたシステム手帳を開き始めた。

「昔、いろいろな選手に“あなたの怖いものを三つ教えてよ”って聞いて回ったんだけど、これがそれぞれの個性が出ていて、とても面白いんですよ。イチローの怖いもの三つを紹介しましょうか?」

佐々木の問いに対して、イチローはしばらくの間、考え込んだという。

「イチローの怖いものは、①夏場、私服でいるときの下着の汗、②優柔不断な人、そして三つ目が毛深い女だって(笑)」

佐々木の思い出話はさらに続く。

「松井秀喜の場合は、①寒さ、②揺れる飛行機、③おばけ。ダルビッシュ有は、①グレープフルーツ、②走ること、そして③ジェットコースター。亡くなった野村克也は、①キムチ、②女房、③鶴岡(一人)さん。野村は辛いものが苦手だったのかな? 星野仙一は、①春菊、②ひがみっぽいヤツ、そして③攻めないピッチャー(笑)。みんなそれぞれの個性が出ていて面白いよね」

球界の重鎮でありながら、世代の違う若い選手とも積極的に交流できることが、佐々木の強みだ。そこには、年齢に関係なく、自分と同じ野球人としての敬意があった。

しかし、中には許せない存在もある。