拙速な待機児童対策が保育環境を悪化させた
「定員超過受け入れ」は、手っ取り早い待機児童対策として、一気に広まった。新しい施設をつくらなくても受け入れ児童を25パーセントは増やすことができるため、自治体は保育園に定員超過での受け入れを求めた。
園としては、多く預かればその分の保育士の人件費は公費から支給されるので経営的には悪い話ではなかったかもしれないが、子どもにとっての環境を重視する園では、面積基準ギリギリでは狭すぎたり、集団の規模が大きくなりすぎたりして子どもが落ち着かないなど、子どもにとっての環境が悪化するというジレンマをかかえて悩んでいた。
面積基準に関しては、以前から「狭すぎる」と言われていたが、保育が足りない局面では、それを改善しようという流れにはならない。それどころか、2009年10月の地方分権改革推進委員会第三次勧告は、保育室面積や保育士の人員などについての最低限度を定めた国の基準を廃止し地方に委ねることを検討するように勧告した。自治体が国の規制に縛られず、それぞれの実情に合わせた保育政策をしたいということだ。
それはつまり、待機児童数が多い自治体は、現行面積基準を超えて子どもを受け入れられるようにするということにほかならない。
ぐらつく「国の保育基準」
これには、多くの保育関係団体や親たちが反対した。「保育園を考える親の会」も反対の意見表明をした。子どものことがわからない人々が、行政効率だけを考えて、子どもの安全や健やかな育ちのための環境を損なおうとしているという危機感が広がった。
最終的に2011年の地方分権改革一括法は、保育に関する基準を都道府県が条例で定めることを認めつつも、保育室面積や保育士配置などの人権に関わる基準については「(国の基準に)従うべき基準」として区別し、国の基準がなんとか維持されることになった。しかし、その附則四条で、待機児童が多い地域で一定の条件を満たす市町村においては時限的に基準を下げることを容認しており、この「面積基準緩和特例措置」はいまでも継続している(何回も延長され、2025年3月31日が次の期限)。