「国の基準」がそもそも狭すぎる

この間、保育室面積について、根拠のある数値を求めようとする研究もあった。2009年3月、諸外国の制度や国内の認可保育園の保育室の状況を調査した「機能面に着目した保育所の環境・空間に係る研究事業」(全国社会福祉協議会)の報告書が発表された。

この調査では、建築の専門家の指導のもと、子どもの遊び、食事、午睡など一日の活動に密着する視察調査を行った。保育の場面ごとに子ども・保育士の動作空間、家具などを使用するために必要な空間の状況などを計測した。この実測値から、建築設計実務で利用されるデータに基づき、必要面積を算出した。

その結果、子ども一人当たりに最低必要な面積は、2歳未満児4.11平方メートル、2歳以上児2.43平方メートルとなった。なお、ここにはほふく(ハイハイ)や遊びに必要な面積は含まれていない(図表2)。これを現行基準と比較すると、図表3のようになる。

保育園が狭いと事故も起こりやすい

折しも、地方分権一括法の緩和が検討されていた時期(2010年)、国の基準を0・1歳児一人当たり2.6平方メートルと誤って解釈していた愛知県の認可保育所で、子どもが過密になって「芋の子を洗うような状態」(施設長談)になり、ごった返す中で保育士の見守りが行き届かず、満1歳の子どもがおやつを喉につまらせ窒息死する事故が起こっている。

地方分権一括法附則四条の緩和を導入した東京都は、認証保育所制度(東京都の基準を満たす認可外保育施設を助成する東京都独自の制度)は0・1歳児一人当たり2.5平方メートルという基準で支障なく運営されていると説明した。しかし、「保育園を考える親の会」が2016年に会員に「見学して預けたくないと感じた施設」があったかどうか聞いたアンケートでは、7割が「感じた」と答え、その理由として最も多かったのが「狭い・きゅうくつ」(25.4パーセント)で、その半数以上が認証保育所の見学者だった。

当時、認可外施設を見学した人が、「赤ちゃんがびっしりいてびっくりした」などと話すことは少なくなかった。待機児童が多い状況下では、基準が低い認可外はどうしても「詰め込み」になりがちで、中には親が見て異常を感じる状態のところもあったということだ。

不適切保育は食事の時間にも起こりやすい。それは、園や保育者が「完食」「好き嫌いをなくす」などの方針にこだわりすぎているケースが多いが、食事時間の慌ただしさが関係している場合もあるだろう。

クラスの保育室で食事も午睡も行う園は多いが、部屋が狭い場合、食事の片付けをしないと午睡の布団が敷けない。食事をとるのが遅い子どもがいると、全体のスケジュールが遅れてしまうので、そういった子どもに厳しくなってしまう保育士もいる。

施設面積にゆとりがある園では、食事室もしくは午睡室をクラスの部屋とは別に設けて、この問題を乗り越えている。