義理の父となる斎藤道三との初対面で…
【杉本】無理ないか。彼とすれば……。
【永井】奇を衒ったとか、信長は天才だから変わったことをやったという人が多いけど、これもやっぱり根はヤケのヤンパチよね。
【杉本】それにツッパリがある。弱味を見せまいという。
【永井】正室の濃姫の父である美濃の斎藤道三との対面のときも、道三が待っているといつもの通りのうつけ者スタイルでやってきた。ところが会見場所の正徳寺(尾張中島郡富田)では、髪を結い直し、正装で威儀を正して出てきた。
同席したものは皆「あいつは大した奴じゃありません」と言ったのに対して道三が、「いや、そうじゃない。俺の息子どもはあれの家に馬を繫ぐことになるだろう」と言ったという、これも信長のツッパリ。
【杉本】それと、せいいっぱいの演出。
いつもギリギリ歯を食いしばって生きていた
【永井】弟をはじめみんなが信長を狙っているから、ナッパ服の現場指揮者よろしく、家来に槍をかつがせて、戦闘態勢で「かかって来い、いつでもかかって来い。俺が相手になるぞ」と勢力を誇示しながら、やっと弟に対抗している。
そこへ道三が会いたいと言ってくる。妻の実家の力を借りるわけね。相手は大企業、こちらは中小企業。しかし、恰好をつけて行くと周囲に狙われるから、戦闘態勢のまま出かける。
道三にしてみれば汚い恰好で出てくるだろうと思っているところにシャキッとして来たから、「あ、なるほど」というわけ。だからこれは苦肉の策。そういうことができるのが信長の偉いところだけれど、決して相手をびっくりさせようとか、余裕があってやっているわけではない。
【杉本】骨肉抗争、内部分裂の危険さえはらんでいた弱小武族の嫡男だものね。いつもギリギリ歯をくいしばりながら、どうやったら危機状態を切り抜けられるかと、四方八方にレーダーを張りめぐらして、若き日の信長は生きていたのよ。
【永井】斎藤道三の援助を受けることに対しても内部にものすごい反対がある。相手は蝮の道三だから、援助を受けたらどうなるか分からない。
【杉本】吞まれちゃう恐れがある。