したたかな女性だった正室・濃姫
【永井】私は平手政秀の割腹の原因はそれだと思うの。政秀は絶対援助を受けてはいけないというわけよ。道三に援助を頼むくらいなら弟信行さまに頭を下げなさいと。それで信長と意見が対立して、諫言の意味も含めて腹を切った。うつけた恰好をして走り回っているから腹を切ったなんて言うけど、そんなことで腹を切っていたら、幾つ腹があっても間に合わない。
【杉本】濃姫についてはどう思う?
【永井】彼女はなかなか切れる女性だったんじゃない。濃姫がいたから道三も信長を援助する気になったわけだから、道三がもう少し長く生きていたら、濃姫は親の方に付いたかもしれない。
【杉本】信長が毎夜庭に出るので、濃姫が「何を見ているんですか」と聞いたら、「斎藤家の家老を味方に引き込んだので、いつ火の手が上るかを見ているのだ」と答えた。濃姫が道三にそれを内通し、道三が怒って、自分の左右の腕と頼んでいた家老を自ら誅してしまった。しかしこれは信長のトリックで、濃姫も道三もが騙されたのだという逸話は、本当かしら。
【永井】私はつくり話だと思う。
【杉本】できすぎているわね。
道三が生きている間は手も足も出なかった
【永井】そう、できすぎている。私がどうして平手政秀の死と斎藤道三の援助とが関係あると思ったかと言うと、『お市の方』を書いたとき年表をつくったら、政秀が死ぬのが天文22(1553)年の閏1月で信長と道三が会見するのはその直後の4月。信長は反対を斥けて道三の援助を得て、主筋にあたる清洲織田家とか弟信行をやっつけている。
信長としては、道三がいる間は手も足も出なかったというのが実態じゃない? また道三も信長を買っていたから、道三が息子の義竜に殺されたとき、信長は敵討ちをする恰好を見せるけど、うまくいかない。
【杉本】美濃を落とすのは、道三が死んだ後で、それでもずいぶん攻めあぐんだ。
【永井】10年かかっているわね。それに相手は道三じゃなくて、道三をやっつけた義竜やその子の竜興だから、信長が道三を陥れようとしたという話は信用できないわよ。
【杉本】むしろ舅も婿もおたがいをうまく利用しようとしてたのよね。ただ、義竜の子竜興の時代に三人衆と言われた老臣稲葉通朝、氏家卜全、安藤伊賀守が信長と内通して竜興に叛旗を翻し岐阜から追い出した話は本当だし、ずいぶん陰に回っての画策はしたと思う。美濃をいずれは併吞したいという気持は絶対に信長にはあったと思うわ。
【永井】そうね。ただ道三の生きている間は、美濃は大国で、手も足も出ない感じがあるから、おとなしかった。