真面目一筋の人は、いつも自分を厳しく戒める
「ボケても愛される人」と「ボケて疎んじられる人」との違いは何なのか?
認知症の高齢者を数多く診てきた私の経験から言えるのは、若い頃から我慢を重ねてきた人のほうが、高齢者になったとき、人あたりが厳しくなる傾向があるということです。
真面目一筋の人は、いつも自分を厳しく戒めています。中には自分と同じように他人にも厳しい目を向ける人が少なくありません。
老いても、その姿勢は変わることなく、脳の老化によって感情だけがコントロールできなくなっていく。その結果、頑なで嫌われるような言動が多くなってしまうのだと思います。
若い頃から浮気ばかりしてきたような人は、ボケてものびのびしていて、周りから愛されている。浮気をするのが良いとは言えませんが、自由に生きていたほうが結果的にいいということではないでしょうか。
認知症は、自分の欠落症状に対する人格の反応である
私が浴風会病院に勤めていたとき、当時、精神科の部長だった故竹たけ中星郎先生には、ずいぶん多くのことを教えていただきました。
その後の私にとって実に意味のある学びだったと感謝しているのですが、竹中先生は認知症について、こんなことをおっしゃっていました。
「認知症は、自分の欠落症状に対する人格の反応である」
簡単に言えば、認知症の症状は、いままでの自分に備わっていた能力が欠け始めたことに対して、もとの性格が反応し、さまざまな形で現れるのだというのです。
たとえば、欠落症状の一つ「記憶障害」が起きて、財布をどこに置いたか思い出せないとしましょう。
もともとの性格が疑り深い人なら、盗まれたと騒ぐ。生来クヨクヨしがちな人であれば、気分が落ち込んで、ひどいときはうつになる可能性もあるでしょう。もともとおおらかな人なら、まったく気にしないかもしれません。
要するに、認知症であれば欠落症状は誰にでも起こるものですが、その人のもとの性格によって、現れる症状はまったく異なるということです。