お金を使うことが心の健康や免疫力アップにつながる

認知症に限らず、高齢になると、もともとの性格の「先鋭化」が起こります。

前頭葉の機能が低下して、感情の抑制が緩んでくるため、怒りっぽい人はより怒りっぽく、心配性の人はより心配性に、頑固な人はより頑固になるわけです。認知症を発症すると、ますますそういう傾向が強くなります。

個人の性格は、その人が長い年月をかけて培ってきたものですから、根こそぎ変えるのはとても難しい。しかし、もともとの性格を変えることは無理にしても、思考のクセは変えられるはずです。

できるだけ早いうちから考え方を楽観的な方向へ、明るく気楽なほうへと転換したほうが、とくに第二の人生は生きやすくなると思います。

高齢になったら、ぜひ、お金に対する考え方も改めてください。

将来への不安が強いためか、年金をもらえるようになってからも、お金を貯め込んでいる高齢者が少なくありません。しかし、老年医学に長い間携わってきた中で、患者さんが死ぬ前に後悔していたことの一つが、「お金をもっと使っておけばよかった」なのです。

人間は体が弱ってきたり認知症が重くなってきたりすると、意外とお金を使えません。

旅行やグルメを楽しむ体力も気力もなくなりますし、介護保険を使えば特別養護老人ホームに入ったところで、費用はたいがい厚生年金の範囲で収まります。

そのときに初めて、一生懸命に節約して貯金しなくてもよかった、もっと使っておけばよかったと後悔するわけです。

だからこそ、体も心も元気で、頭もしっかりしているうちに、お金をどんどん使って人生を楽しむべきだと思います。お金は持っているよりも使ってこそ価値がある、というふうに考え方を変えてほしいのです。

花畑に立つ老夫婦
写真=iStock.com/Toa55
※写真はイメージです

自分の楽しみにお金を使うこと、余裕があれば他人のためにも使うことで幸せを感じられ、それが心の健康や免疫力アップにつながり、ひいては老いを遅らせることになります。

たまの贅沢をすることで、前頭葉は刺激される

実は、お金を何に使おうか、と考えるだけでも前頭葉は働きます。ちょっと奮発して欲しかったものを買ったときなどアドレナリンが放出されて気分がガッと上がり、「よし、明日からも頑張るぞ!」とやる気が湧いてくるでしょう。

これが前頭葉が刺激されている証拠で、いつもは躊躇ちゅうちょするような高価な買い物をしたときのほうが、前頭葉への刺激は大きくなるのです。

質素倹約を心がけている人でも、たまにはぜいたくしたほうがいい。

月に一度くらいは豪華な食事をしたり、温泉に出かけたり、何らかのぜいたくをするだけで、前頭葉は刺激されて心も豊かになります。

私は、ワインが好きなので、何か仕事を頑張ったときは、いいワインを飲みます。お金はかかりますが、おいしいワインを飲んでいるときは何とも言えない至福のひとときです。

そんな私もコロナ禍でワインどころではなくなりました。

代表を務めている通信教育の会社のお客さんが激減して、講演などの依頼もどんどんなくなり、毎月のマンションのローンが払えない状況にまで陥りました。

そのため借金もつくりましたし、いつか大事なときに飲もうと思って大事にストックしていたワインを泣く泣く手放して、ローンの返済にあてたこともあります。