物珍しさや話題性でヒットしたものの、一過性のブームで終わる商品はたくさんある。そうではなく消費者の生活必需品として定着するにはどうすればいいのか。岡山氏はプロジェクトメンバーへ、自分たちのミッションを次のように伝えた。

「商品を通じてカルチャーをつくろう」

カルチャーをつくるとはどういうことか。それは暮らし文化をつくる、と言い換えることができる。消費者のライフスタイル、生活のシーンまで考えて、商品を根付かせる、ということだ。

たとえばポケットドルツという電動歯ブラシが生まれたのは、電動歯ブラシを担当する、入社2年目の女子社員のこんな一言がきっかけだった。

「岡山さん、私、大学時代はお昼を食べたあと化粧直しも歯磨きもしてなかったんだけど、会社に入ったら女性社員がトイレで歯を磨いている。でもみんなパナソニックの社員なのに普通に手で歯を磨いています。これ、どう思いますか?」

手磨きが電動歯ブラシに切り替わったら、それはカルチャーと呼べるものになる。そこで岡山氏は彼女にこう言った。

「君の独自調査では、OLの6~7割がランチの後に歯磨きしてるんやな。もしその手磨きを全部電動歯ブラシに替えられたら、あんたはもうヒーローやで」

OLのランチ磨きを意識した結果、ポケットドルツは爆発的にヒットする。化粧ポーチに収まるサイズ、カラフルな色がOLに支持されたのだ。

長年、良く言えば安定的、悪く言えば伸びがなかった電動歯ブラシの市場で、ポケットドルツは10年だけで150万本を超えるヒットになった。またOLのみならず男性にもポケットドルツの購買者が出始める。電動歯ブラシによるOLのランチ磨き、というカルチャーが一気に広がった。

冒頭のナノケアの大ヒットにも女性社員の生活実感が大きく貢献している。もともと美容のためのスチーマーはあったが、暮らしに定着しているとはいえなかった。