もともと部署内では、部下の強みを活かすために配置に気を使い、担当も部下たちの強みが出るように考えて割り当てています。ですから私は、彼女たちの邪魔をしないようにして、ひたすら彼女らの10打数3安打に懸けている。『この商品は機能的にもっとこうしたほうがいいんじゃないか』などということは、ほとんど言いません」

自分が美容商品の企画をすると、まず技術面が気になる、と岡山氏は言う。たとえばスチームを浴びることによる水分量の変化など、技術のエビデンス(証拠)にこだわってしまう。消費者が商品を使用するシチュエーションよりも、肌や髪を美しくするための可能な限り最高の技術を求め、それを商品化する、という発想になりがちなのだ。

ところが部下の女性たちは、「岡山さん、100%のエビデンスが出る最高の商品でも、続けられそうもなければ買いませんよ。エビデンスが7掛けでも毎日続けられる商品のほうが必ず受けるって」と言うのだ。

「だから私は納得できなくても、ある程度は任せてしまっています。私が納得するのを待っていたら遅くなってしまう。彼女たちに走ってもらいながら、私はだんだん納得していく感じですね」

それでは岡山氏は部下から上がってくる企画のよしあしをどこで判断するのか。それは「汗を流したうえでの提案かどうか」だと言う。

「当社を創業した松下幸之助は、とにかく情熱と熱意と汗、知恵はそのあと、と言っています。汗と情熱を費やした中で出てくる知恵しか意味がない、と。私もいつもそこを見ています」

「汗をかいているかどうか」の判断に具体的な基準があるわけではないが、岡山氏の判断に迷いはない。

「これは古い感覚かもしれないですが、話を聞いていればわかる。正直、私もいままで手を抜いたり、軽く流そうというときもありました。ですから部下の話を聞けば、どれくらい苦労して提案の裏付けを積み上げたかはわかる。部下が私の意見を聞いてくるときも、情熱、熱意を失っていないか、汗をかいたうえでの迷いなのか、そこを見ています」

またほかにも創業者の言葉を大切にしている、という。

「部下たちが正しい方向に向かっているかどうか迷ったときは、松下幸之助の言葉に戻ります。創業者が唱えた経営理念である、社会生活の改善と向上を図ることに、この商品が役立つのか、を判断基準として大切にしていますね」