絶望続きのローマで見た悪夢

キャメロンはたった一人でローマに行って現地のスタッフたちと闘ったが、結局押し切られてしまった。だから彼は『殺人魚フライングキラー』を今も自分の作品だとは思っていない。

「ローマで僕は人生最大の疎外感を味わった。イタリア語はわからないし、金はないし、おまけに食あたりまで起こした」

そして悪夢を見た。炎の中から金属の骸骨がいこつのようなロボットが立ち上がる映像だったという。そのイメージからキャメロンは物語を膨らませていった。『ターミネーター』へと。

作業BGMは『惑星』の「戦いの神・火星」

「他人の脚本ではダメだ」

キャメロンはついに『ターミネーター』のシナリオを書き始めた。士気を高めるため、ホルストの組曲『惑星』から勇壮な「戦いの神・火星」をエンドレスで聴きながら机に向かった。

『ターミネーター』の設定は、レーガン政権の対ソ強硬策で核戦争の危機が高まっていた1982年当時の状況を反映している。核戦争からアメリカを防衛するため、NORAD(北米防空司令部)はサイバーダイン・システム社が開発したコンピュータによる全自動防空ネットワーク「スカイネット」を採用する。

これはレーガンが提唱したスター・ウォーズ計画(人工衛星からのビーム砲でICBMを迎撃する)によく似ている。ところが「スカイネット」は自ら核戦争を起こしてしまう。人間社会が崩壊した後、スカイネットに率いられた機械たちが地球を支配し、人類を奴隷にした。

猿の惑星』の「猿」を「機械」に置き換えた話のようだが、『地球爆破作戦』(70年)という映画にもよく似ている(原作D・F・ジョーンズ)。

アメリカ政府はNORADのあるロッキー山脈の地下に、防空システムを統括する巨大コンピュータ「コロッサス」を設置する。ところがソ連も同様のコンピュータ「ガーディアン」を開発。二つのコンピュータは戦争を防ぐための話し合いをしたいと人間に要求する。言われたとおり回線を繫ぐと、二つのコンピュータは結託して核ミサイルで人類を脅迫した。核で滅びるか、このままコンピュータに服従して世界平和を実現するか……。