「人類を終結させる者」ターミネーター

『ターミネーター』の世界では、奴隷になった人類が機械に反乱を起こす。レジスタンスのリーダーの名はジョン・コナー。コナーは地下に潜り、ゲリラ戦で敵を翻弄ほんろうする。機械軍はコナーに関する情報を集めたが、母親の名前がサラだという程度しかわからなかった。コナーは織田信長に抵抗した雑賀衆の謎の頭目、孫市のようなものだ。

そこで機械軍はゲリラ側に潜入できる人間そっくりのロボットを開発した。それがターミネーター(人類を終結させる者)だ。ターミネーターの体は人間と同じ皮膚で覆われ、外見では人間と見分けがつかない。ただ、犬だけは人間と機械を嗅ぎ分けることができた。

しかし、ターミネーターでも機械軍はコナーに近づけなかった。そこでタイムマシンでターミネーターを過去に送った。コナーが生まれる前に母親を始末するのだ。これを知ったコナーも決死隊を過去に送った。自分の母を守るために。

キャメロンの最初のアイデアでは決死隊は二人で、「生まれて来なかった男」同様、タイムワープ時の事故で一人が死亡する。このような決死隊は実際の戦史にヒントを得たのだろう。たとえばドイツに占領された母国チェコに敵中降下し、「死刑執行人」と呼ばれたナチスの残虐なハイドリッヒ長官を暗殺し、玉砕したヤン・クビシュたちの戦いは『暁の7人』(75年)として映画化されている。

「シナリオを買いたい」という依頼が殺到

シナリオを書くキャメロンの相談相手となり、励まし続けたのはゲイル・アン・ハードだった。キャメロンは書き上げた『ターミネーター』の権利をたった1ドルで彼女に譲った。このシナリオを決してキャメロン以外の誰にも監督させないという約束と引き換えに。それはまた、彼女への愛のあかしでもあった。

ゲイル・アン・ハードとジェームズ・キャメロン監督
ゲイル・アン・ハードとジェームズ・キャメロン監督(画像=Towpilot/CC-BY-SA-3.0-migrated/Wikimedia Commons

『ターミネーター』のシナリオはたちまちハリウッド中の噂になった。数々の映画会社がキャメロンを訪れてシナリオを買おうとした。一文無しのキャメロンは喉から手が出るほど金が欲しかったが、断った。どこも『殺人魚フライングキラー』なる駄作以外に実績のないキャメロンに監督をさせたがらなかったからだ。