監督がシュワルツェネッガーを嫌がった理由

こんなに似ているのはたんに同時期に書かれたからだけではないだろう。主人公が「大切な人を救うために命を捨てて死地に戻っていく」という物語の根幹は、『ターミネーター』にも共通するし、『アビス』(89年)や『タイタニック』のクライマックスにもなっている。キャメロンは、このプロットにとりつかれているようだ。『ターミネーター2』では「I’ll be back !(戻ってくるぜ!)」がシュワルツェネッガーの決めゼリフになった。

『エイリアン2』は後に自分で監督することになるが、キャメロンは『〜怒りの脱出』の監督の依頼は断った。主演のスタローンと会ったとき、『ロッキー』(76年)のシナリオも自分で書いたスタローンが自分にリライトさせろと言って、脚本を持っていってしまったからだ。原型を残さないほど書き換えられて極端に右翼的な内容になった『〜怒りの脱出』を、キャメロンは自分の作品ではないと言っている。

筋肉スターのエゴにりたのか、マイク・メダヴォイから『ターミネーター』の主役にアーノルド・シュワルツェネッガーを薦められたキャメロンは、絶対に嫌だと断った。

目立たない容貌の俳優を探していたが…

ターミネーターはもともと人間の中に紛れ込ませる刺客として作られたので、あまり目立たない容貌の俳優、たとえば『U・ボート』(81年)のユルゲン・プロホノフ、または『殺人魚フライングキラー』に出演して友人になったランス・ヘンリクセンが想定されていた。

キャメロンはヘンリクセンをモデルに自分でイメージボードまで描いていた。しかしメダヴォイは「もっと知名度のある俳優」が必要だと主張して、元フットボール選手のO・J・シンプソン(!)を推薦した。そして、ターミネーターと戦う戦士カイル役にシュワルツェネッガーを推したのだ。

ボディビル映画で知名度を高めたアーノルド・シュワルツェネッガー
ボディビル映画で知名度を高めたアーノルド・シュワルツェネッガー(画像=Los Angeles Times/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

アーノルド・シュワルツェネッガーはオーストリアのアルプス山中の小さな村に生まれ、ボディビルのヨーロッパ・チャンピオンになると、22歳で渡米、俳優を目指したが、きついオーストリアなまりが直らず、芽が出なかった。

35歳にしてやっと『コナン・ザ・グレート』(82年)でハリウッド大作の主役の座をつかんだが、腰布一枚で剣を振り回すだけのコナンでは俳優として認められなかった。シュワルツェネッガーにしてみれば、ここできちんとセリフもある『ターミネーター』のカイル役がどうしても欲しかった。