現場に入ると人が変わる

ショールームを視察/商品のチェック、スタッフへの助言をする鈴木修の目つきは厳しい。妥協を許さないときも。

翌朝、午前9時前。バンコク市内の西部にある四輪車および二輪車の販売店「スズキ ラマII」。67年からスズキの二輪販売代理店を務めてきたバンスズキが建設した新店舗である。3月から営業を始めているが、この日は鈴木修を招いてオープニングセレモニーが開かれた。

鈴木修は、マイクロバスに乗ってスズキの幹部たちと一緒にやってきた。ドアが開き、真っ先に降り立つ。好みの色である黒の上下に、クールビズである。

バンスズキのブンロート・ラパロキット会長、その子息でもあるマヌーサク・ラパロキット社長らが出迎える。通訳を介し何か面白いことを言ったのだろう、鈴木修を中心に笑いが輪になって弾けた。

バックヤードにも登場/驚く女性スタッフをしり目に、倉庫の棚について細かく改善を指示。現場が似合う経営者だ。

駐車場の式典会場。特設テントの中央席に鈴木修は着座する。しばらくは、タイ人関係者たちの挨拶に応じていたが、日本人スタッフに何かを持ってくるよう指示をした。ネクタイである。式典が始まる直前、鈴木修は座ったまま黒い背広を脱ぎ、シャツの襟を上げてタイを結び始めた。やや、照れくさそうにだ。するとどうだろう、タイの列席者の間から、柔らかな笑いが湧いた。

ちなみに、筆者はかつて鈴木修が新幹線のグリーン車内で着替えをするのを見たことがある。ネクタイを外し堂々とワイシャツを脱いだ。上品そうなご婦人が横目遣いに通り過ぎ、こちらが心配になるくらいだったが、何となく許されてしまう不思議なキャラクターである。