人を見たら、泥棒だと思いなさい
高度1万1000メートルを超える機中。隣の若い女性は、入国審査カードを何回も書き直している。3回目のチャレンジが失敗したとき、鈴木修はついに声をかけた。「どうしたの、大丈夫?」と。戦前生まれの日本人の特徴かもしれない。困っている人に対して、何もせずにはいられないのである。
女性は堰を切ったように、自ら話し始めた。今回が初めての海外渡航であり、東南アジアを中心に数カ月間1人旅をする計画であること、宮城県で看護師をしていて、20代前半であること……。
「ご両親は、(今回の旅行について)何も言わなかったの?」「いってらっしゃい、だけです」「エッ! そうなの……」
鈴木修は軽い衝撃を覚えた。若い日本人女性が、海外で凶悪事件に巻き込まれるケースは後を絶たない。今夏も、女子大生がルーマニアで殺害されたばかりじゃないか。親はあっけらかんとしすぎている、と鈴木修には思えた。「こんなに大きく育てたのに、何かあったらどうするのか」と思いを巡らせる。
一方で、「最近の若者は1人で行動する。俺たちの世代はみな臆病だった。国内でさえ『一緒に行こうや』と連れだったのに」という、変な感心も抱いていた。
鈴木家では、子や孫に留学やホームステイをさせている。ただし、鈴木修は筆者に「男の子だけな。女の子はそうはいかんのだよ」と、本音を吐露している。反論する人はいるだろうが、男親の気持ちが滲む。