勝因は「見せたがり」ユーザーの活用
●神戸大学大学院経営学研究科教授 小川 進/構成=宮内 健
ミツカンの事例の面白さは、他人に自分がつくった料理を見てもらいたいという「見せたがり」ユーザーの存在に気づき、上手に活用したことであろう。
インターネットの普及で情報余りの時代に突入した今、私たちには良い情報を人にあげたいという欲求が起こっている。この気持ちがレシピの投稿へとユーザーを動かす。
クックパッドでは誰かが投稿したレシピへ、他のユーザーがそれを元につくった料理のフォトレポート、略して「つくれぽ」を投稿できる。レシピの評価が高いほど、つくれぽの数が増える。投稿数が増えサイトが活性化すると、自分の嗜好に合ったレシピを発見しやすくなり、投稿はしないが「自分もつくってみたい」という層ができてくる。
クックパッドは「投稿」「模倣」「閲覧」という3層構造をつくり上げ、コミュニケーションの循環を生み出している。その潤滑油となるのが、ミツカンの「スゴだれ」のような巧みなネーミングである。検索によって人々はネット上を動く。インパクトのあるネーミングが新たなレシピを探すパスワードとなり、ユーザーを検索へと導く。
別の観点からこの事例を見ると、クックパッドはリードユーザーを見える化するツールともいえよう。消費者の中には企業が気づかない間に製品の革新的な使い方を考えつき、試作品までつくっている場合がある。こういった消費者はリードユーザーと呼ばれる。企業にとって、彼らの知恵を製品開発に活かすことがイノベーションの手法の1つとなる。
リードユーザーの発見には手間がかかる。ところがクックパッドではつくれぽの数を見れば、背後にどれだけ同じ意見を持っている人がいるかがわかる。そのため図らずもリードユーザーを顕在化する機能を果たしており、ユーザーの傾向をつかむ便利なツールとなっているのだ。
※すべて雑誌掲載当時
(的野弘路=撮影)