塩分摂取量の目安はどの程度か

これを自分でつくるとしたら、素焼きの焙烙ほうろくで3~6時間もかけて焼かなければなりません。誰にもできることではないと思いますので、市販のものを探します。私自身いろいろな商品を調べ産地まで見学に行ったりもしていますが、私の知るかぎりベストと言えるのは「海の精 やきしお」(海の精)です。

この塩であれば、どれだけ食べても安心です。先述のとおりナトリウムは過剰摂取されませんし、不要なミネラルは排出されます。味見をしながら自分が「おいしい」と感じる塩梅で食べればいいのですが、じつはそれが健康にも最適なのです。その濃度を科学的に分析すると、地域差の好みを考慮したとしても「0.9%」前後に収まります。なぜならそれが、私たちの体液と同じ塩分濃度だからです。

どんな野菜も、味付けなしで食べるとあまりおいしくありません。「採れたてなら生でかじってもうまい」と言う人がいますが、せいぜい一口か二口です。私も畑で採ってすぐの野菜をそのままかじって試しましたが、野菜の種類にかかわらず数時間後にはたいてい胃もたれがしました。カリウムばかりを急に体内に入れたからです。

ところが、生野菜も塩を振るだけで、とてもおいしく感じます。それも振ってすぐではなく、少し置いてからがいい。畑の作物はナトリウム(といくつかのミネラル)が欠けているので、塩を振って補うと、味のバランスが整うのです。しばらく置くといいのは、塩に含まれるミネラルが野菜に浸透しほかの栄養素と結合するからです。

海産物の多くは塩化ナトリウムとカリウムの比率が1:1なので、成分のバランスとしては理想的です。しかし、塩化ナトリウムが他の成分と強力に結合していると、塩味として感じる部分が少し弱まります。そこで醤油などを少しつけて塩味を補ってあげると、とてもおいしく感じます。

よく「肉には岩塩が、魚には海塩が合う」と通ぶって言う人がいますが、陸と海の単なるイメージ合わせでしかありません。肉料理も魚料理も、ミネラルバランスが整った塩を使うのがいちばんおいしくなるのです。

ただし、精製塩特有の鋭いしょっぱさや減塩で薄味が基準になってしまっていると、人が本来「おいしい」と感じる塩分濃度に物足りなさや塩辛さを感じるかもしれません。ある種の味覚異常が生じている状態ですが、心配する必要はありません。いい塩と自然な食物を摂りはじめると、ほとんどの人が1週間から長くても1カ月くらいで本来の味覚を取り戻します。

塩が毒とか薬とか、減塩がよいとか悪いとか、二者択一の簡単な話ではありません。ナトリウムとカリウムとそのほかのミネラルのバランスが取れているか、食材そのものに含まれる栄養素との兼ね合いなどにもよって、味や効能が変わってきます。

私たちの体には本来的に必要なものを欲し、過剰なものや不必要なものを排出するメカニズムが備わっています。そのメカニズムが上手に機能するように、整えるとよいでしょう。

【図表】おすすめの塩と目安摂取量

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年6月14日号)の一部を再編集したものです。

(構成=野澤正毅)
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