勉強に目覚めるのは「こころの脳」が育ってから

――前編で不登校や発達障害も睡眠で改善するというお話がありました。小学校に入って以降、親の大きな悩みになるのが子供の勉強ギライだと思うのですが、これも睡眠を改善すると変わりますか?

はい、学習面でも改善していきます。

ただ、そもそも小さいうちは勉強が好きな子なんていませんよ。小さい子は本能で生きているはずで、喜怒哀楽とか危険から身を守るとか、死に至らないように生きるといったことが大切なのです。でも、勉強は子供たちが生きるために別に必要ではありません。だから、小学校低学年で勉強が好きなんて言ってたら逆に変です。

ではなぜ学校に行くかというと、他の人間という生き物が好きになってきて、その集団の一員になることが心地よかったりするからです。それからみんなで先生の話を聞くという新しい刺激、今まで経験したことのないことがあるからです。

そうして学校に通い続けているうちにそれなりに学力はつくと思うんですが、でもそれは、本当の意味での勉強ではないんですよ。本当の意味の勉強というのは、自分を深めるための知識欲や、論理思考に支えられています。これは前頭葉つまり「こころの脳」が育つ10歳以降で初めてできるようになるのです。

そうして「こころの脳」が育ち上がっていけば、自分は将来これになりたいという姿、医者でも弁護士でも自動車整備士でもいい、自分の将来像を想像するようになります。想像するのは前頭葉の働きですから。

そして自分なりに模索して、その将来像に至るための段取りを考えた時に、高校はこういう学校に行って、大学進学するなら○○学部に行かなければならないというのが見えてきます。そこでようやく「嫌いだけど社会も勉強しようか」とか「英語に徹底的に取り組んで点数を増やそう」となるわけです。

親は「勉強」の定義を変えよう

昆虫図鑑とかポケモンの図鑑ばっかり見て、国語、算数、理科、社会の課題には手を付けない子は、一般の大人の定義で言うと「勉強嫌い」かも知れません。でも昆虫が好きな子が昆虫図鑑をすみずみまでなめるように、中身をほとんど覚えられるくらい読み込むのは、私の定義では「勉強好き」です。そういう意味で勉強嫌いな子はそんなに多くありません。

何かすごく好きなことを見つけて、それをどんどん掘りさげていこうとする子は、その後自分の目標を見つけた時に、そこに向かって頑張っていくことができるはずです。

昆虫採集をする子供
写真=iStock.com/somethingway
※写真はイメージです

――そこに関しては親が干渉しないほうがいいわけですね。

干渉しないというよりは、もうちょっと積極的に対応しましょう。子供が何か熱中するものを見つけてきた時に、水を差さない。「ポケモンのことだけは誰にも負けないね」って言ってあげる。そこは大事だと思いますよ。「ポケモンばっかり見てないで勉強しなさい」って言うのが一番いけません。勉強嫌いを助長するだけです。

――好きなことに熱中するのはいいけれど、学校の勉強をしないと基礎学力すらつかないのではと親としては心配になるのですが。宿題を出さないと学校からもいろいろ言われますし。

うちの子も提出物は全然出さないし、忘れ物ばかりしていた子でしたが、どこかの時点でやり出すんですよ。中学2年か3年の時に宿題を家でやってる姿を(初めて)見てびっくりしたことがありました。

例え提出物を出さなくても、学校に行っているというだけでそれなりに何かは身につきます。クラスのトップの方にはいないかも知れないけれど、繰り返しの刺激が入ってきますから。

学校におけるペーパーテスト向けの勉強は学校にお任せして、子供が家で勉強しないならその代わり、家庭の中で意図的に子供に役割を分担させることを通し、基礎学力と言うべきものを鍛えましょう。

例えば算数が苦手な子に「今日、お友達が9人来るんだけど、この丸いケーキ、9等分するにはどうしたらいいかな」と相談する。子供が考えて「まず3つに分けて、それをさらに3つに分けたら9になるんじゃない」と言ったらほめる。そういうことを通し、3の塊が3つあったら9になる、つまり3×3=9であり、3の2乗が9であるっていうことが、だんだんイメージとして頭に入ってくるんですよ。

学習という要素は実生活の中にいかようにでも入れることができると私は考えています。