かつて人がより動物的だった時代は、常に食うか食われるかの危険と背中合わせ。敵と出くわせば、心臓がどきどきして体が硬直し、手のひらが汗びっしょりになる緊張状態に陥るのが普通でした。今も、根本は同じです。たとえば苦手な上司が廊下の遠くのほうに見えれば、バクバクと硬直と汗まみれの緊張状態が訪れるのです。

そんな状態で相手にNOを言おうとしても、いきすぎた戦闘態勢で相手を攻撃してしまったり、反対に萎縮しすぎて受け身になってしまうのが関の山です。アサーティブの前提には、まず相手の主張をよく理解することが挙げられますが、これではうまくいくはずがありません。次のように緊張をほぐすことを意識してやってみてください。まず深呼吸して心臓の鼓動を鎮め、また体の力を意識して抜いて硬直をほぐすほか、手にかいた汗をハンカチなどで拭うのも効果が期待できます。脳に入る情報を少なくするために目を閉じる寸前まで細めたり、「落ち着いて落ち着いて」と心のなかで唱えるのもいいですね。こうして、「今はリラックスしていいとき」と脳に教えてあげるのです。

【図表】いざNOを突き付ける前に自分の脳をリラックスさせて準備を

NOを言っても相手と和を保てる人たち

ちなみにこれはドイツの神経科医シュルツ博士が考案した「自律訓練法」の一種で、人が衝動的になったり、固まって動けなくなることを防いでくれます。相手が熱くなって自己主張を押しつけてくるようなときはなおさら。まずはこうして自身の心と体をクールダウンしてから相手と向き合うことで、誰も傷を負わない、アサーティブなNOを言える状況に近づくことができるのです。

ではこのへんで、具体的なやりとりの方法を見ていきましょう。まず下の表では、今夜は約束があるのに、上司に残業を押しつけられそうになったときのリアクションとして、よくある3つのパターンを紹介しています。上司のほうも「2時間くらいなんだから、いいだろ?」と、NOを言うスキを与えない、かなり圧のかかった要請をしている想定です。同一人物だからといって、いつも同じリアクションをするとは限りませんが、たとえばこんなとき皆さんのNOは、どのパターンにあてはまるでしょうか?

①は、まずは相手の非を突っ込むという攻撃から入るNOです。これを選んだ人は攻撃的な自己主張に偏りがちで、他人に抑圧的な「アグレッシブタイプ」の要素が強い人といえるでしょう。勝ち負けにこだわったり、自分の意見を他人に押しつけることが多くなるため、周囲の人に疎まれる傾向があります。ちなみに残業を押しつけてくるこの場合の上司は、まさにアグレッシブタイプ。ギリギリよく言えば、表裏がなく、「感情に正直」な人ともいえるでしょう。

続いて②は、受け身的で依存的に見える「パッシブタイプ」。アグレッシブタイプとは対照的に、自己主張を避け、相手の意見をそのまま受け入れてしまう傾向が強い人です。自分の意見を言わない不正直な人と思われることもあり、相手に不安感を与えたり、つけ込みやすい対象として軽く見られることもあります。

今回のケースでもはっきりNOと言わないので、上司のなかではとっくに「了承」と見なされ、約束している友人とか恋人とかに、こそこそ電話して、「ごめん、今夜だめになった」と告げるハメになります。

アグレッシブもパッシブも、人間なら誰もが深層心理に持っている本能行動。意識しないと本能の指令のまま、どちらかのパターンに振れてしまいます。

ただし、皆さんの周囲にはしっかりNOを言っているのに、アグレッシブでもパッシブでもなく、なぜか相手との和を保っている人がいませんか?

これがつまり③のアサーティブタイプです。もしこれを目指すなら、意識して本能行動をコントロールする必要が出てくるわけです。

【図表】NOの言い方からわかる人物タイプ