人間には愚かな行動をとる権利がある

もう一つ、昭和と比較して大きく変わったのが「健康」に対する意識です。昭和は「不健康なのが格好いい」という風潮すらありましたが、今や不健康は愚の骨頂。むしろ不健康な人は侮蔑の対象というか、「健康であるべき」ということが、逆に抑圧になってきているわけです。

ここで思い出すのが「愚行権」。人間には愚かな行動をとる権利があるという意味です。例えばギャンブルにハマるのも、自分のお小遣いの範囲でするのなら、それは愚行権の一環。健康を害するタバコを吸ったりすることも、人に迷惑をかけなければそれは愚行権の範囲内です。ある意味、昭和にはそういう愚行権が認められていた。

お酒を飲んで、徹夜で麻雀をやって、体を壊しても自分の責任。でも、今はそれをやると社会に迷惑だ、家族のことを考えていないという話になって怒られる。そういう愚行権が抑圧されている部分があるのかなと思います。

若者は気を付けてほしい「昭和の残骸」おじさん

もちろん昭和には昭和の抑圧がありました。女性が男のような遊びをしたら「女のくせに」と言われ、LGBTQの人はカミングアウトすることも難しかった。最近はある意味、さまざまなバックボーンをもつ人が自由に生きられるようになり、自由の裁量が広がった面はもちろんあります。

でも、愚行権のような自由もある程度認めたほうが、個人がより自由に生きられる。決して昭和のすべてを肯定しないし、あの時代に戻りたいとも思わないですが、あのころのある種の自由は、今の時代にも多少取り戻したほうがいいように思います。

今後はますます新しいテクノロジーが浸透し、社会も劇的に変化していくでしょう。新たなビジネスチャンスが生まれ、今の時代に即した新しい起業家も出てきています。そのときに昭和世代は足を引っ張ってはいけないし、若い人たちは「昭和の残骸みたいなおじさん」の話なんて聞かないでほしい。

昭和の日本人は、前のめりすぎるぐらいにテクノロジーに積極的でした。ソニーやホンダだってテクノロジーでガンガンに世界へ打って出た会社です。それが2000年代に入るころからテクノロジーの話をした瞬間、日本人はみんな「怖いですね」としか言わなくなった。この後ろ向きの考えが、あらゆるところで日本の足を引っ張っていると思います。

40〜60代の人が「昭和の残骸おじさん」にならないようにするためには、テクノロジーを忌避せず、新しいものをどんどん取り入れること。そういう努力を怠らないでほしいですね。

(構成=篠原克周 撮影=川田雅宏)
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