出所した父の面倒を見ることになった息子
日本で起きている殺人の約半数は家族間で起きている。筆者は、加害者家族支援団体で200件以上の家族間殺人の相談を受けてきた。今回は、超高齢化社会の問題として、近年、焦点が当てられるようになった介護殺人の背景に迫る。
プライバシー保護の観点から登場人物の名前はすべて仮名とし、個人が特定されないようエピソードに若干の修正を加えている。
「母が亡くなったという知らせだけで胸がいっぱいでしたが、父が殺したという事実を突きつけられたときは、どん底に突き落とされた感じでした……」
佐藤正弘(50代)は毎月、母親・和子(当時70代)の墓前で手を合わせている。和子は、夫の忠雄(80代)にロープで首を絞められ殺害された。事件当時、和子は癌を患っておりほぼ寝たきり状態で、認知症の症状も出ていたという。忠雄は動機について、介護に疲れ、将来を悲観したと供述していた。
「父はかつてここに来たい、花を手向けて欲しいと言っていましたが、私が絶対に許しませんでした。母が許しても、私は絶対、父を許すことはできません」
それでも正弘はしばらく、刑務所を出所し、認知症の症状が現れている忠雄の面倒を見ることになった。
「まあ、世間体ですよ。事件後、長男なのになんで親をちゃんと見てなかったのかって、私が責められましたから……。放っておいたらまた何言われるかわからないから……」
しかし、正弘は介護を担う立場になって、父親の気持ちが少しは理解できるようになったという。