大河ドラマのように苦労して悩む家康像は現代に通じる

歴史小説を書く場合。読者は現代人なので、現代の価値観からも何かしらの共感を持ってもらわなければなりません。江戸は元来が、かかあ天下の土地柄だったし、出稼ぎの町で圧倒的に女性が少なかったので、特に女性の再婚、再再婚は珍しくありませんでした。その辺の感覚は、むしろ現代に近い気がします。男尊女卑という考え方も、徳川の世が終わった後の明治以降に醸成されたように思えてなりません。西国の侍たちが東京で新政府の役人になって、東国に持ち込んだのではないでしょうか。

植松三十里『家康を愛した女たち』(集英社文庫)
植松三十里『家康を愛した女たち』(集英社文庫)

そんなことで多くの女たちと関係を持った家康ですが、力のある男性ですから、女性たちにとっても魅力的だったことは容易に想像できます。

秀吉は天下を取ったのが偉いわけですが、家康は天下を治めたことが最大の業績です。合戦に勝ち残ったのが偉いわけではなく、江戸幕府のシステムを確立して平和な世の中を270年続くようにしたのが、やはりすごいと思います。これまでの徳川家康像は、立派で正々堂々と家臣たちを引き連れてリーダーシップを発揮して……というふうな描き方で誰もが納得したけれど、やっぱり今の時代は誰もがいろいろと悩みながら生きているし、そうして苦労して悩む家康というのが、今日の存在意義として見られるのだろうと思うわけです。

それでいて、肖像画からもわかるように目に活力が充満していて、デキるおのこで……そうした経歴を踏まえて肖像画を見ると、なかなかのイケメンでもある。大河ドラマで、目が印象的な松本潤さんが家康を演じているのも、私は納得して観ています。

2023年5月5日、浜松まつりで行進する大河ドラマ「どうする家康」の家康役・松本潤
撮影=松島優喜
2023年5月5日、浜松まつりで行進する大河ドラマ「どうする家康」の家康役・松本潤
(取材・構成=春日和夫)
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