創業者の孫・伊藤弘雅氏は「現場の叩き上げ」

弘雅氏はコンサルティング会社勤務や起業を経験したあと、食品スーパーのヨークベニマルに入社した。

ヨークベニマルは福島県を中心に宮城県、山形県、栃木県、茨城県の5県に246店舗(2023年2月末時点)を展開し、生鮮食品や惣菜をはじめとする食料品、衣料品、などを販売している。1973年にイトーヨーカ堂と業務提携し、紅丸商事から現在のヨークベニマルに社名変更した。業界では「東北の雄」「食品スーパーのお手本」といわれ、現在は名誉会長の大髙善興氏はプライベートブランド「セブンプレミアム」のきっかけをつくるなど名経営者として知られている。

伊藤弘雅氏は大髙善興氏から直接指導を受け、店舗の売り場担当者からスタートして店長などを経験している。創業家の出身ながら、いわば“現場の叩き上げ”である。現在は、ヨーカ堂の商品本部長として広範囲の事業を統括し、事実上は事業本部長に近い役割を担っている。

伊藤弘雅氏の人事も含め、吸収合併したヨークとヨークベニマルがヨーカ堂再生のカギを握ると筆者は見ている。

イトーヨーカドー大森店
撮影=プレジデントオンライン編集部
イトーヨーカドー大森店

ヨーク、ヨークベニマルの人材とノウハウがカギを握る

ヨークは東京・神奈川・千葉・埼玉で101店舗(2022年2月末)を展開していた食品スーパーで、同社の食品部長だった西山英樹氏が現在はヨーカ堂のフード&ドラッグ事業部長となっている。

ヨーカ堂の再生には、旧ヨークとヨークベニマルの人材とノウハウがフル活用されていくと筆者は予想している。

今年4月に発表されたヨーカ堂の「ラストワンマイル施策」は好例だ。最短20分で商品を届ける即時配送サービス「OniGO」を本格導入し、2024年度中に首都圏、中京、近畿エリアでサービス提供を開始する予定だ。

「OniGO」ではスマホやパソコンのアプリを通じてヨーカ堂やヨークの最大約8000種類の商品を購入できる。生鮮食品の野菜、果物、精肉など生鮮食品、惣菜、乳製品などの日配品のほか、日用品、文具、肌着などをアプリで注文すれば配達してもらえるサービスだ。このラストワンマイル施策は、ヨーク時代から伊藤弘雅氏が先導している。

創業家の2人にとって、祖業であるヨーカ堂やスーパー事業を伸ばすのは使命なのだ。

ヨーカ堂本社に行くと1階会議室前の壁に創業者である伊藤雅俊氏の「お客様は来てくださらないもの、お取引先は売ってくださらないもの、銀行は貸してくださらないもの、というのが商売の基本である」という訓示が掲げられている。訓示の姿勢が、顧客に提供する商品サービスや社員の行動に真に練り込まれることこそが、ヨーカ堂の経営改革でも重要な原点になると筆者は考える。山本社長と創業家の2人には、顧客起点に立ち返り、ヨーカ堂を成長軌道へと導くことを期待したい。

(構成=伊田欣司)
【関連記事】
なぜウォルマートは5000億円以上を「広告」で稼げるのか…日本の小売業が誤解する「リテールメディア」の本質
なぜワークマンの勢いは止まったのか…「ワークマン女子の強化」を危険な賭けと評価せざるをえない理由
フランスを追い抜き輸入額で第1位に…日本の若者が安くてかわいい「韓国コスメ」に夢中になっている理由
京都の山奥でソフトクリームが年50万本爆売れ 道の駅年商6億で過疎村を輝かせた"元チャラい公務員"の地元愛
なぜ和歌山県で「1億円プレーヤー」の農家が増えているのか…東大教授が絶賛する「野田モデル」の画期的内容