長期的に組織の力を高める結果に…

覚えるのも慣れるのも時間がかかる回避性のタイプは、効率が悪いようで、実は効率がいいのだ。派手さはないが、いったん身に付けたことを地道にやり続けてくれる。このタイプの人にとっては、新しい環境に飛び込んでいくことの方が、リスクも不安も高いので、現状を維持した方が安全なのだ。そのため、このタイプの人の安全を脅かすようなことをしない限り、末永い付き合いがしやすい。

存在感が稀薄で、毒にも薬にもならないように思うかもしれないが、そこが長い目で見ると有利に働くのだ。回避性の人は頼りない面もあるが、衝突や摩擦を好まないので、敵に回るリスクが少ない。敵に回ったとしても、自分から立ち去るだけなので、それほど怖い相手ではない。しかも、口下手で自慢をしたりはしないが、能力は高いことも多く、ことに、専門領域では優れた能力を発揮する。社交に時間を割かない分、仕事や自分の好きなことに時間を使ってきた結果だ。

このタイプの人に居心地のいい職場環境を整え、長くいついてくれるようにすることは、長期的に組織の力を高めることになる。遊び心や自由な気風を大事にし、主体性を重視するグーグルなどの新しいタイプの会社の成功は、まさに、そうした新しい発想に立つ職場環境の整備によってもたらされている部分も大きい。

「やってみないか」もしくは「やってくれると、ありがたい」

その意味で、回避性の人にとって最悪の上司は、何かというとすぐに部下を怒鳴るようなタイプだ。回避性の人は、大きな声や怒鳴り声といったものに、特に強い拒否感を示すことが多い。そもそも争いが嫌いという前に、感情をむき出しにすることだけでも、不快だと感じる。感情的になるような人は、もはや古いタイプのリーダーであり、新しいタイプの組織に居場所はない。

しかし、仕事を任せる以上、負担や責任が増えることは避けがたい。では、負担や責任を増やさざるを得ないという場合、どのように対応するのが良いだろうか。

まず一つは、強制するのではなく、本人の主体性を尊重することだ。「やってもらう」ではなく、「やってみないか」「やってくれると、ありがたい」と、相手に逃げる余地を残した方がいい。そして、実際に逃げ場所や助け船を用意しておく。このタイプの人は、相談するのが苦手で、うまく行かない事態に遭遇しても、自分で何とかしようとして、行き詰まってしまうことが多い。「困ったら、私を頼ってくれたらいい」「きみをしっかりバックアップする」「やれるところまでやってくれたらいい」と、追い詰めない。

その方が、プレッシャーが下がり、実際に力を発揮しやすくなる。「お前の責任で何とかしろ」「お前がやるしかない」という言い方でいくと、このタイプの人は、それだけでつぶれてしまう。「お前が責任を取れ」ではなく、「いざとなったら、おれが責任を取る」と言っておくだけで、安心して頑張れるのだ。

両手を重ねてこちらを向いている人
写真=iStock.com/sqback
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