消費者が「安全」と錯覚してしまう理由

また、製造における品質管理の規定も、トクホに比べて弱いと言えます。トクホにおいて原材料や製品の規格、製造方法の変更などを行う場合、その理由や変更しても製品の同一性を失わないとする科学的な根拠などを届け出なければなりません。一方、機能性表示食品のガイドラインでは、生産工程・品質管理の変更について、そのような細かい規定はありません。

医薬品の場合には、原材料や製品の規格、製造方法など変更したい場合には厚生労働省に申請して承認を受けなければ変更できないのです。

安全性や機能性の担保は、製品の品質管理と品質保証が適正に行われているのが大前提です。機能性表示食品は、その点も著しく緩かったのに、錠剤やカプセルなどの形状や国の制度に則った製品であることなどから、消費者が大丈夫と錯覚していたのではないでしょうか。

健康被害の公表と国への報告が遅すぎる

それにしても、小林製薬に最初の症例報告があったのが1月11日であり、2月1日までに計5例の症例の情報が寄せられた、と同社が記者会見で説明しています。それから3月15日までに合わせて13人の報告があり3月22日にやっと発表し消費者庁へも報告。あまりにも遅すぎるのではないでしょうか。

機能性表示食品のガイドラインには、健康被害に関する事項が定められており、「万が一、健康被害が発生した際には、急速に発生が拡大するおそれが考えられる。そのため、入手した情報が不十分であったとしても速やかに報告することが適当である」と記載されています。今回の同社の対応は、このガイドラインを大きく逸脱している、と思えます。

今、健康被害の訴えが続々、広がっています。報告の2カ月の遅れは、被害拡大につながっていないでしょうか。

記者会見で頭を下げる小林製薬の小林章浩社長(中央)ら=2024年3月22日午後、大阪市中央区
写真=時事通信フォト
記者会見で頭を下げる小林製薬の小林章浩社長(中央)ら=2024年3月22日午後、大阪市中央区

厚生労働省は3月22日、都道府県等に情報を上げることや、消費者への適切な対応を「事務連絡」として伝え、25日には日本医師会に協力を要請しました。しかし、対応が弱いように思えます。今回の事案は、非常に大きくかつ深刻な「食中毒」事案です。「直ちに摂取の中止を」と強く呼びかけるとともに、厚生労働省が中心になり、「食品衛生法違反のおそれあり」として、自治体や国立研究機関と共に迅速に原因調査すべきではないでしょうか。