お菓子売り場から色が消えた

2001年、三科社長はタール系色素を使用しているNB商品を店では一切販売しないことを決めました。

しかし、当時42歳だった社長の判断に社員からは疑問の声が出ました。

「やはり売り上げが減るのでは? という声は多かったですね。なにより商品がなくなって売り場がスカスカになると。それでもタール系色素が入っているモノはすべて棚から外しました。当時、合成着色料をたっぷりつかっていたのは子ども向けのお菓子だったんです。結果、お菓子売り場からカラフルな商品が消え、なんだか色合いが地味になりました(笑)」

しかしこれだけでは本気度が伝わらないと考えた三科社長は、「半年後に地元紙 山梨日日新聞に全面広告を打つ」と全社員に宣言しました。

「もうこれで方針を撤回することはないぞと。社員に対するメッセージでした」

とはいえ、売り場の担当者やバイヤーは代替品を見つけるのに相当苦労したようです。

「当然、卸やメーカーは難色を示しました。現場ではなく管理職の方々の反応はとくに渋かったのを記憶しています。あるメーカーには、当初はPB商品の提案を不可能だと伝えられました。それでも私の思いを根気強く言い続けたところ、ある時に、その社員の方が『社長の思いはわかりました、上を説得してみます』と言ってくれ、PB商品を作ってくれたんです」

新聞の全面広告に書いた決意表明

2001年9月28日、新聞にいちやまマートの全面広告が掲載されました。

「タール系色素完全撤廃!」と書かれたチラシには、無添加たらこ・明太子や天然色素すら使わないソーセージなどの商品が4品だけ並んでいます。広告としてはまったく集客できそうもない内容です。特売商品もありません。あるのは一つのメッセージ。

「未来を担う子供達のために、今大人がしなければならないこと。それは、こんなにも安易に使ってきてしまった食品添加物を少しでも減らしていくことだと思います」と書かれています。

実際の新聞
筆者撮影
実際の新聞

これはある意味、これまでの品揃えの否定であり、他の食品スーパーの品揃えに対する警鐘でもあります。

「ただ単に健康的な食品をだしているわけではありません。おいしくないと販売する意味がない」

この取り組みは反響を呼び、07年にはPB商品を化学調味料無添加に完全リニューアルし、株式会社美味安心を設立し、本格的な拡販に入りました。

高知のスーパーがいちやまマートの商品を売りたいと挨拶に来られ、地方スーパーで同じ思いを共有するスーパーへの卸販売も始まりました。24年時点で全国のスーパー60社で美味安心が販売されるまでになっています。