自分との対話こそが一番豊かなコミュニケーション

世の中で成果を上げ、活躍している人ほど、「自分との対話」が上手にできる人だと考えます。

それはビジネスの世界であれ、職人や芸術家の世界であれ、あるいはスポーツの分野でも同じでしょう。

なぜなら、これまで述べてきたように、自分の中に答えと真実があるわけですから、当然と言えば当然のことなのです。

イチロー選手は、自分の調子がいいときのバッティングフォームを覚えていて、つねに今の自分がそのときとズレていないかをチェックしていたそうです。

肩の位置が下がっていないか、手の位置、顔の向け方、足の開き方……。

細かくチェックして、少しでもズレがあると、その都度修正する。

だからこそ、あれだけ年間を通じてヒットを打つことができたわけです。

おそらく大谷選手も、自分なりのピッチングとバッティングフォームの型をしっかりと記憶し、自分で自分をチェックしているでしょう。

一流選手が一流として活躍できる背景には、つねに自分との対話があるわけです。

彼らは声にこそ出さずとも、頭の中でひとり言をつぶやいていたはずです。

芸術家などは、まさにその典型といえます。

真の芸術家は、それこそ「外」に答えを求めません。自分の「中」にある美的感覚と創造性を頼りに、まったく新しい表現を求めるわけです。そのオリジナリティは、自分との対話の中からしか生まれないものなのです。

私はシュールレアリズムの絵が好きですが、現実を超えた超現実、非現実の世界を描こうとする芸術家は、まさに表現者としての先駆者であり、パイオニアです。

彼らはときに、自分の深い内面へと入り込んでいきます。そこは無意識の深層であり、言葉を超えた世界です。

アーティストは「自分との対話」――つまり、ひとり言の達人でもあるといえるでしょう。

私のような科学者も、これまで発見されていない未知の法則や理論、技術を創り出すという意味では、同じだと考えます。

やはり自分とのコミュニケーションの中で、新しい気づきや発見が生まれます。

もっとも豊かなコミュニケーションは、「自己との対話」ではないか、と私は思っています。

誰もが自分の脳と会話し、脳を進化させることができる

重要なことは、このような創造的な作業は、一部の限られた人たちだけのものではないということです。

なぜなら、人間であれば誰しもが脳を持ち、自分自身と対話すること=「つぶやき」ができるからです。

それによって、より創造的な生き方ができるのです。

そう言うと、「いやぁ、私なんてとてもそんなクリエイティブな思考はできないよ」とか、「私は決して頭のいい方じゃないから……」と否定する声が聞こえてきそうです。

ただし、それがとんでもない間違いであるということが、私の脳研究で証明されました。

私はこれまで1万人以上の人の脳を、MRI脳画像を使って分析してきました。

画像を使って、クリニックを訪れる人たちを診断・治療してきました。

そこから得られたのが、以下の3つの結論です。

①脳には個性がある
②脳の形は日々変化する
③脳は使えば使うほど成長する

この中で、もっとも皆さんに訴えたいのは、③の「脳は使えば使うほど成長する」という結論です。

加藤俊徳『なぜうまくいく人は「ひとり言」が多いのか?』(クロスメディア・パブリッシング)
加藤俊徳『なぜうまくいく人は「ひとり言」が多いのか?』(クロスメディア・パブリッシング)

かつて、人間の脳は3歳になるとほとんど成長が止まり、大人になるともう脳は成長しないと考えられていました。

これはとんでもない間違いです。

たしかに、3歳までに脳細胞自体は揃うのですが、脳が機能するのはそれらが複雑にネットワークを築き、情報を交換し合うことができてからです。

その意味では基本的なネットワークができるのは、30歳前後であり、さらにそれから応用力として、脳全体を使う力が伸びていくのです。

とくに判断力を司る「超前頭野」は、40代以降にその旬を迎えます。しかもこの部分は、100歳を過ぎても成長を続けることがわかっているのです。

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