住民の失業率は46%と世界最高、パレスチナ難民の貧困率は80%超

【手嶋】国連が2012年に発表した報告でも「2020年にはガザは人が住むにふさわしくない場所になってしまう」と警告していました。

【佐藤】そういう状況ですから、経済はとうに破綻していたんですよ。住民の失業率は46%と世界最高です。貧困ライン以下で生活する人は全住民の65%。パレスチナ難民に限って言えば貧困率は80%を超えているというデータさえあります。

手嶋龍一・佐藤優『イスラエル戦争の嘘 第三次世界大戦を回避せよ』(中公新書ラクレ)
手嶋龍一・佐藤優『イスラエル戦争の嘘 第三次世界大戦を回避せよ』(中公新書ラクレ)

【手嶋】その劣悪な生活環境に政治的な自由もなく閉じ込められている様は、まさしく「世界最大級の野外監獄」でした。このような逃げ場のない状況では、住民たちの不満が沸点に達するのは時間の問題だったのでしょう。しかし、国際社会は、ウクライナでの戦いや台湾海峡での緊張の高まりに目を奪われて、ガザの惨状には関心を向けようとしませんでした。

【佐藤】今回のハマスの奇襲が行われる直前にはガザ地区の住民たちによるデモも行われたのですが、いつもの事として国際社会は注意を向けませんでした。イスラエル、とりわけ、ネタニヤフ政権に注がれる憎しみと怒りが高まり、同時に、ここを直接統治しているハマスにも不満は向けられつつあったのです。支配者のハマスとしても、いま何とかしなければ、自分たちの統治そのものが危うくなるという危機感が高まっていたと思います。

住民たちの怒りの矛先をイスラエルに向けようと奇襲作戦に踏み切った

【手嶋】完全封鎖された後も、イスラエル軍は幾度もガザに空爆を敢行しています。そのたびに、ハマスの軍事拠点だけでなく、一般の市民にも犠牲者が出ています。しかし、財政難のハマスは、空爆で家を失ったり、家族を失った人たちへの補償や手助けをする余裕がない。住民のなかには「これまでハマスを信じてついてきたが、暮らしは一向によくならない。むしろ悪化するばかりだ」という不満が募っていたといいます。その一方で、大切な資金をトンネル掘りや武器づくりに振り向けていると批判的な声も住民のなかに出ていたようです。住民は自分たちは武器づくりやトンネル掘りに加担しなくても、ハマスが何をしているかは薄々気づいていたでしょうから。

【佐藤】ロケット弾をひとたび撃てば、イスラエルから「10倍返し」、「100倍返し」の空爆を食らってしまう。しかも、その代償の多くは自分たちが支払うことになる。“もうハマスにはついていけない”という声が目立ってきていました。そうした声にハマスは当然気づいていて、何とかしなければと焦りを募らせていたはずです。

【手嶋】住民たちの怒りが自分たちに向かってくるのは何としても避けたい。自分たちはイスラエルと雄々しく戦っている。そんな姿を示さなければとハマスは思ったはずです。住民の怒りと不満の矛先をイスラエルに向けようと、捨て身の奇襲作戦に踏み切った。そうした背景があったと思います。

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