私はこのジレンマを解消するためのパラダイムシフトを提案したい。制作現場バリバリのクリエイターでも実績をしっかりと上げている者は出世をさせるという仕組みを一日も早く確立した方がいい。

これは一時期、日テレやフジで気まぐれ的におこなわれていたが、しっかりと「制度化」して役員にまで押し上げることが重要だ。多様化のこの時代に、メディアの一員であるテレビ局の上層部が上のことしか見ていない「イエスマン」ばかりで占められているなど、時代遅れも甚だしいし、企業としては不健全だ。「一日も早く」と進言したのは、「人材流出」は今後ますます激化、加速化すると推測するからだ。

テレビ東京は、2023年4月にほぼ現場一筋の伊藤隆行氏を制作局長に抜擢した。伊藤氏はかつて「モヤモヤさまぁ~ず」で「伊藤P」として画面に登場し、創り手自身が番組出演するという手法を確立した。伊藤氏をどれだけ引き上げてゆくかで、テレ東の「覚悟」と「度量」がはかられるだろう。

以上のようなテレビ局の仕組みや構造がベースにあることで日ごろから鬱憤やストレスがたまっていたクリエイターたちが、「コロナ禍」が拍車をかけた「配信化」が進むなかで自分が活躍する場が広がったと感じ、「テレビ局にいなくてもよい」「いや、むしろ局にいないほうが自由に伸び伸びとできる」と考えた。

そんな理由から、近年、テレビ局を辞める者が増えているのだ。辞める者に対してテレビ局がする仕打ちは、かなり冷たいものがある。そのあたりのリアルな話は自著『混沌時代の新・テレビ論』の45ページあたりをお読みいただきたい。本題を進めよう。

平均年収1500万円以上というテレビ局の給与水準

辞めた人の収入はどうなるのだろうか。

求人情報サイトによれば、テレビ局の正社員の給与水準は高い。2023年の平均年収では、テレビ東京HDが1522万円、フジ・メディアHDが1580万円となっている。本稿の最初に挙げた②(辞めた人の収入は? テレビ局を辞めるともうかるのか?)の視点についてだが、まずは実際に辞めた私のモデルケースで説明したい。

私は「現場主義」を貫き通した一般社員である。一時期は「統括プロデューサー」という肩書だったが、57歳を迎えるとともにこの役職からも離れ、最後は単なる「いちプロデューサー」となった。これを「役職定年」と言う。60歳を迎えた段階で、役職がない一般社員は「定年」を迎える。これは、在京キー局のテレビ局においてはどこも同じである。

定年後は「再雇用」によって65歳まで働くことができる。だが、この「再雇用」が問題だ。それまでの給料の3分の1くらいになってしまうからである。私は子どもを授かったのが遅かったので、定年の60歳時にはまだ下の子は中学2年生。上の子は大学進学を控え、これから学費が大変なときに「給料3分の1」は厳しい。しかも、再雇用が終わる65歳のとき2人は大学在学中である。考えただけでも恐ろしい……。