若手の稀少性が高まっている
A社の代表取締役は経営者としてはまだ若いほうで、リーマンショックを若い頃に経験している世代でもあり、その当時の就職活動の状況と比べると、今の学生たちが面接で待遇や休みについて単刀直入に聞いてくることに驚いていた。
ただ、地方の企業で採用の話を聞くと、初対面の社長であっても学生が待遇の話を聞くのはもはや当たり前になっているようで、それは別に学生が変わったわけではなく、社会が変わったのだと思わされる。1人の人材、若手の稀少性が高まっているのだ。より条件のいい会社で働ける可能性が高いのだから、就職活動でそれを確認したいと思う気持ちを誰が責められようか。
「学生向けのPRは本気で考えないといけないと思っています。今後、もっともっと採用が厳しくなるのは目に見えていますので。若者がどんどん貴重になるなかで、地元の企業同士で地元の若者の取り合いになると考えたら、ぞっとする。そのなかで、どう会社と地域が生き残っていくかを考えています」
これほど問題意識を持ち、先手を打って設備投資や労働条件・環境改善をおこなっている企業であっても、人手の確保に苦心していることを痛感した。とくに衝撃を受けたのは、社長が「地元の企業同士で地元の若者の取り合いになる」という近未来を明確に感じていたことで、「ゾッとする」という社長の言葉にその場で戦慄を抑えることができなかったのを憶えている。
【事例②】「閑散期のはずなのに毎日仕事を断っている」
さまざまな場で必要性が高まっている警備業の企業からも、現場で何が起こっているのかを聞くことができた。建設工事において必須の、道路などのインフラ工事の現場での交通誘導や工事警備を担う企業の声である。
「地域全体で警備員のなり手が減っています。かつては市内の警備会社で合計300人ほどいたのが、ここ3、4年で200人ほどに減っているんです。その影響もあり、閑散期にもかかわらず、毎日のように仕事を断っています。もっと言うと、工事現場などはすでにうまく回っていない感覚もあります。原材料費の高騰や人手不足もあると思います。これから10年後、20年後の現場を考えても、昨今話題のAI(人工知能)の導入がどれだけ私たちの現場の仕事に効果があるのか……」