サブスクという新しいアプローチ

では、どうすればよいか。グローバル・マーケティングにおいては、そこにひとつの万能解があるわけではない。ダイキンもまた、国や地域によって異なる制度や慣習、連携が可能な企業の存在などによって参入のアプローチを変え、中国、アメリカ、ヨーロッパ、インドと、それぞれに異なるマーケティングを展開しながら着実に地歩を固めている。

その中で今回取り上げたいのは、近年ダイキンがアフリカのタンザニアで展開している、サブスクリプション(定額課金)モデルを用いたアプローチである。同社はこのアプローチによって、現地における事業拡大の手応えをつかんでいる。

それにしても、なぜタンザニアで、サブスクなのか。

10台中7台のエアコンが「ゾンビ化」していたわけ

ダイキンは2020年、タンザニアでLEDランタンのレンタル事業を展開していたベンチャー企業WASSHA(ワッシャ)とともに、合弁企業Baridi Baridi(バリディ・バリディ)を設立。タンザニア最大の都市ダルエスサラームで、エアコンのサブスクリプションサービスの展開を進めている。同社で最高経営責任者(CEO)を務めるのが、ダイキンから派遣された朝田浩暉氏である。

タンザニアで開かれたダイキン販売店のイベントに参加したBaridi Baridiの朝田浩暉CEO(左から3番目)と、同社の仲間たち
写真提供=Baridi Baridi
タンザニアで開かれたダイキン販売店のイベントに参加したBaridi Baridiの朝田浩暉CEO(左から3番目)と、同社の仲間たち

ダイキンはその前年の2019年から、WASSHAと連携してタンザニアでの新しいマーケティングを模索していた。農村部では電力網が未整備なタンザニアだが、都市部では電気が供給されるようになっており、薬局、洋服店、理髪店などの街中の店舗にもエアコンが普及しつつあった。

朝田氏は2019年からタンザニアを訪れ、現地の状況をつかもうとしていた。当時弱冠30歳だった朝田氏が、飛び込みで街のお店を訪問してみて驚いたのは、お店のエアコンの10台に7台ほどが、稼働していないゾンビ・エアコンと化していたことだ。

経済成長が続くとはいえ、タンザニアの産業の主力は農林水産業であり、依然として所得の水準は低い。一方で日本のような四季はほぼなく、一年中暑さが続く。エアコンの価値は大きいはずなのに、せっかく購入したはずのエアコンが放置され、酷暑のなかで使用されていない状況だった。