【公益社団法人日展への質問】
1.2022年8月に発表された総務省統計局の『令和3年(2021年)社会生活基本調査』によると、「趣味・娯楽」の中の「書道」の行動者数(実際に行動したことのある10歳以上の国民数)は381万人に上ります。多くの人が書をたしなんでいますが、書の人気が高い現状をどう捉えておられますか。
2.『社会生活基本調査』の2016年の「書道」の行動者数、463万人に比べると、5年間で18%減少していますが、書の世界でどのような変化が起きているのでしょうか。
3.2013年に、日展の「書」で入選者の割り当てがあったという疑惑が浮上し、第三者委員会(濱田邦夫委員長)は、日展の書道部門で長老支配、金権体質があると指摘しましたが、2013年まで、そうした傾向があったのでしょうか。
4.2013年以降、「改組 新 日展」として再スタートしましたが、第三者委員会の指摘を踏まえ、日展はどのような改革をしたのでしょうか。制度面、選考の方法、選考時のチェックなど。
5.「改組 新 日展」の再スタート後、審査での不正(疑惑も含めて)、長老支配、金権体質は根絶されたのでしょうか。
6.「公益社団法人 日展規則」には公正、公平、不正といった言葉が盛り込まれていません。「審査員は公正、公平な審査を行う」とか「不正が行われたときは審査員を解任する」といった文言がありませんが、こうした項目を、なぜ規則を入れなかったのですか。
7.日展規則第19条の7に、「本条における違反を発見したときは、審査員については、審査員を解任し、以後、理事会の決議により審査員に選任しないことができる。また審査員以外のものについても、同様とする。ただし、違反が軽微な場合は、その期間を限定することがある」となっており、唯一、ここだけに「審査員を解任」という言葉があります。「本条」というのは、「審査員は、鑑審査の経過を洩らしてはならない」という行為です。鑑審査の経過を漏らしたら解任するが、「審査で不正をしたら審査員を解任する」という規則がないのはどうしてですか。
8.「日展規則第17条 鑑査及び審査の結果についての異議は、受理しない」となっており、鑑査、審査に問題があっても、指摘できない規則になっています。鑑査、審査に問題があると思われるときは、どのようにチェックするのでしょうか。
9.コンプライアンス(法令遵守)、ガバナンス(組織活動を制御するための統治)に問題があるとき、不正のチェック、内部通報などの仕組みはありますか。
10.読売書法会の中核をなす日本書芸院と謙慎書道会は、美術系の書道界で有力な書道団体です。「書道美術新聞」(美術新聞社刊)は、「改組 新 第1回日展」(2014年)と「改組 新 第2回日展」(2015年)の第5科(書)の会派別入選者数を掲載しました。2回とも、入選者の85%は読売書法会を構成する日本書芸院と謙慎書道会の2つの書道団体が占めていましたが、日展で、読売書法会系の書道団体が強い(入選できる)のはどういう理由からでしょうか。
11.日展第5科(書)の入選者の85%、特選者の多くは、日本書芸院と謙慎書道会の書家という著しい偏りがあります。長い歴史と権威があり、全国最大の公募美術展である日展の本来の姿から逸脱しているように思います。特定の書道団体が力を持つ第5科(書)の現状をどのように捉えておられますか。問題はないのでしょうか。
12.日展の第5科(書)の審査員の数を調べてみました。2011年から2023年までの計13回の会派別の分布を見ると、13回の合計数221人(延べ人数。17人×13回)のうち、日本書芸院が121人(54.8%)、謙慎書道会が63人(28.5%)、その他の書道団体等が37人(16.7%)でした(2団体の合計は83.3%)。日展の審査員に読売書法会系の書道団体が多くなったのはいつ頃からで、どういう事情で高いシェアを占めているのですか。審査員の偏りに問題はないのでしょうか。
13.第5科(書)の会員と、理事・監事などの役員の構成にも一部の書道団体への偏りが見られます。こうした状況に問題はないのでしょうか。
14.日展の書道団体別の特選受賞者数を調べてみました。2004年から2013年の10年間で、読売書法会系の特選受賞者は100人(10人×10回)中85人(のべ人数)でした。2014年から2023年までの10年間では81人。2016年は5人でしたので、それ以外の年はほぼ同じペースで特選を受賞しています。読売書法会系の特選受賞者が多い理由をどう解釈すればいいのでしょうか。偏った受賞者の状況に問題はないのでしょうか。
15.2014年、2015年の入選者も、2004年から2013年の特選受賞者も85%という数字が一致していますが、何か事情があるのですか。「第5科 書」で、不正問題が指摘された後も、2016年を除けば、特選受賞者の比率は同じような数字になっています。偏った入選、特選受賞者の状況に問題はないのでしょうか。
16.2013年以降、書の審査でどのような改革が行われたのですか。審査員、入選者、特選受賞者の数に変化があったのでしょうか。「入選者の割り当て」がなくなったはずなのに、数字に変化がなかったとしたら、どう理解すればいいのでしょうか。
17.2013年の不正疑惑発覚後の第三者委員会の指摘は間違っていたのですか。
18.1984(昭和59)年に発足した「産経国際書展」を運営する産経国際書会は、「クリーンな審査と書芸術を通じて国際友好を図る」という二大目標を掲げて新しい書道団体をスタートさせました。第35回の産経国際書展の「ごあいさつ」で、「本会の基本理念は、Clean=清潔、Clear=明朗、Creative=創造、Character=品格の4Cであり、なかでもクリーンで公明正大な審査、創造力豊かな作品の多さにつきましては、各方面から高い評価を頂き、大いに自信を持っているところです」(2018年)と謳っています。「クリーンで公明正大な審査」をあえて標榜していることは、書道界で「クリーンで公明正大な審査」が行われていない展覧会があるように受け取れます。日展は「クリーンで公明正大な審査」を行っていると理解していいのでしょうか。
19.「第5科 書」の審査で、入選者の割振り、金権体質、長老支配はなくなり、問題は一掃されたのでしょうか。
20.2023年の日展では、応募点数の約78%、入選者の約47%を「第5科 書」が占めており、著しい偏りがあります。他の4科と比べて、明らかにバランスが崩れています。応募点数、入選者が多い部門は日展の売上高、利益に貢献。他部門からものが言えないと考えられます。こうした状況をどう捉えておられますか。問題はないのでしょうか。
21.日展の会員、審査員を経験した方が日本芸術院会員、文化功労者、文化勲章の栄に浴することが多いようです。日展の入選や特選受賞にはカネが必要だと、巷間伝えられています。日展に利権構造があるということは、日本芸術院会員、文化功労者、文化勲章の叙勲や選考も利権構造の上に成り立っていると言えます。こうした状況をどう捉えておられますか。問題はないのでしょうか。
22.ユネスコの無形文化遺産登録など、書の世界は今後、国際的にさらに注目されると思います。美術系の書の世界の審査に問題があれば、日本の芸術への信頼性が揺らぐことになりかねません。こうした問題意識を持っておられますか。書の審査、書の世界のヒエラルキー(階層的な支配構造)は、今後どのように変わるべきでしょうか。
【公益社団法人日展の回答全文】
日頃より日展の展覧会事業をはじめとする公益事業活動に対しまして、ご理解とご支援を賜り、ありがとうございます。
このたび、メールにて多項目にわたるご質問を頂戴しました。ご質問は、書道をめぐる社会情勢に対する状況認識を問うもの、他団体との関係を問題にするもの等を含み、私共が回答するに適さないと思われますので、逐一のご回答は控えさせていただきます。
貴殿が問題にされているのは、第5科「書」を含む日展の審査における公正さが保たれているかということと考えますが、これに関しては、審査員の選考方法、審査員は続けて任じられることがない等の制度上の担保のほか、毎年審査員が選任された時は、外部審査員を含めて「日展審査員行動基準(ガイドライン)」に宣誓していただくなどの方法を講じており、展覧会終了後には諮問委員会で検証するなどにより公正さの確保に努めております。
簡単ですが、以上をもって回答といたします。