ユニクロ柳井会長も影響を受けた

――戦後の焼け野原から立ち上がった流通革命世代の後の世代にも、倉本の思想は受け継がれました。ファーストリテイリングの柳井正さんもその一人で、彼は自身の執務室に「店は客のためにあり 店員とともに栄える」という倉本の言葉を掲げています。

笹井さんの著書『店は客のためにあり 店員とともに栄え 店主とともに滅びる』(プレジデント社)を読んで、柳井さんはとても純粋に倉本長治さんの教えに取り組んでいらっしゃると知り、感銘を受けました。どうやってお客さまに、品質のいいものを買いやすい価格で届けられるかを追求し、それをやれる構造をつくってこられた。

業界を超えて優秀な人材を採用されたり、アパレル業界最高の給与水準を構築したりするなど、すごいなと思いますね。それで今日、売上高は3兆円に近づき、10兆円も視野に入れていらっしゃる。

当社の場合は売上利益に優先して、どうやって暮らしに役に立つか、あるいは暮らしの美しさというものを追求してきました。それは規模とか量とは比例しづらいものだから、独立独歩で生活美学的な機能として役に立とうと事業を進めてきました。このように企業の成り立ちもDNAも違いますから、仮に柳井さんが倉本さんの著作から10篇を選んだら、ぼくのそれとは異なるでしょう。

「良品計画」の金井政明会長
撮影=よねくらりょう

「付加価値」のマーケティングはもう終わった

社会も変わり、「一億総中流」は過去のものとなりました。そういう時代を見ていると、やっぱり僕たちが変わらなくてはならない。生活美学を追求しつつも、買いやすい価格実現のための企業の経営改革は大切です。

最近僕は、セイコーマート(現・セコマ)の丸谷智保会長がおっしゃる「削減価値」という言葉に大変共感していますし、無印良品的商品が増えていく社会だとも感じています。超高齢化社会において、従来の付加価値マーケティングは「付加」を消費者が負担する以上限界があり、これからは「削減価値」というマーケティング概念が必要だというものです。

製造過程の無駄を排除して歩留まりを上げ、シンプルな流通や物流を実現する。サプライチェーン全体で協力し、超高齢化社会に適合した新たな価値観(削減価値)を生み出さねばなりません。

そしてそれは、当社の「第二創業」の意味の一つとも合致します。創業当時の「わけあって、安い。」というコンセプトそのものです。ただ、あの時代は「素材の選択」「工程の点検」「包装の簡略化」という商品に対する削減価値のみを点検したのですけど。いまはサプライチェーン全体で取り組む必要があります。その意味で社員みんなの意識を変える必要がありました。