「第一志望校に合格するぞ」と叫べなくなった理由
日本は「少子化」であるにもかかわらず、首都圏の中学受験者数が増えているのは「歪な構造」である側面があります。
わたしがいま言及した「家庭の『進学塾化』」「親の『塾講師化』」というのもよく考えれば「歪な構造」のひとつでしょう。なぜなら、そういうご家庭、保護者のもとで中学受験勉強に打ち込んでいる子どもたちの大半は、普段から特定の進学塾に通い、そこで各科目の指導を塾講師から受けているからです。
わたしは中学受験生の保護者を対象にした講演会でこんな話をよくします。
「首都圏の中学入試は受験者総数が増加していることを踏まえると、年々激化しているといえます。第一志望校に合格できる子より、そうではない結果を突き付けられる子のほうが多い世界です。そうとはいえ、保護者の皆さんがわが子の成績を客観視して、中学入試で受験する学校のレベルを『挑戦校』『実力相応校』『安全校』と三つに区分し、それらを戦略的に、バランスよく配して『受験パターン』を構築できれば、どこからも合格切符を貰えない、つまり『全敗』という憂き目に遭うことは滅多にありません。
中学受験は子どもたちに膨大な範囲の学習を課します。そのため、子どもたちは遊んだり、趣味に没頭したり、習い事に熱中したり……そんなかけがえのない時間を犠牲にしています。ですから、中学受験である特定のレベル以下の学校だったら、公立中学校に進学してまた高校入試でリベンジすればよいではないか。そういうお考えの保護者がいるならば、ここで立ち止まってほしいのです。ここまで受験勉強に一生懸命取り組んだ子どもたちを再び受験勉強に間髪を入れず専心させるつもりですか? 第二志望校だって第三志望校だってよいのではないでしょうか。中学受験勉強をわが子が貫徹するのなら、中高一貫校に進学させて、子どもたちに高校入試という『障壁』を取り除いてやってください」
わたしは塾講師です。本来の塾講師の役割は「子どもたち一人ひとりの第一志望校合格に向けて伴走する」ことにあります。皆さんも「進学塾」ということばを聞いて、「絶対、第一志望校に合格するぞ!」とハチマキを巻いた熱血講師が絶叫するシーンを連想する人がいるのではないでしょうか。かくいうわたしも大手塾に属していた昔はこの手のフレーズを受験生たちの眼前で叫んでいたものです。
しかしながら、近年は少し「トーンダウン」した話を保護者に向けてするように変わったのです。聞けば、ほかの中学受験塾でも同じような話をする傾向にあるようです。「家庭の『進学塾化』」「親の『塾講師化』」に警鐘を鳴らしているのです。